『桐沢たえの トクサツの話がしたい』第4回・第1話が神回の話 ~仮面ライダー編~
note「ニチアサの話がしたい。」の桐沢たえさんによる愛情たっぷりの特撮コラム。第4回では『仮面ライダーゼロワン』を紹介します。
※この連載は私、桐沢たえがスーパー戦隊や仮面ライダーやウルトラマンなど特撮ヒーロー作品について「話したい」ことを好き勝手に話す偏愛なコラムです。
第1回~第3回は、スーパー戦隊シリーズでの「個人的に1話が神回だと思う戦隊」について話していきます!(連載を始めるまでの経緯はコチラ)
今月は……
多分、100人のスーパー戦隊ファンに「シンケンジャーの第1話は好きですか?」と聞いたら180万人が「好きです!!」と答えると思う。それほどまでに『シンケンジャー』の1話は素晴らしい。素晴らしいし、完璧だし、もうとにかく全てが天才なのだ。当時リアルタイムで1話を観た姉貴いわく、放送が始まるまでは正直、「次の戦隊のレッド、顔に火って描いてあるんだけど……」と、かなり不安だったらしいが、第1話が始まってわずか2分後には「この顔に火って描いてるレッド、死ぬほどカッコいい!!」とメカゴジラ並みの手の平返しをしたらしい。なぜ2分後か。それは『シンケンジャー』のオープニングアクションがマジで度肝を抜くほどカッコいいからである。
転がっていったボールを追いかけて、壁と壁の隙間に手を入れた少年を襲う、三途の川からやってきた雑兵、ナナシ連中。奴らを成敗するため、投げこまれた煙幕の向こうから姿を現す、着物を思わせる赤いヒーロースーツに身を包んだ一人の男。「外道衆共、よおく聞け!こちらに御座すのは、300年の昔より貴様達を葬ってきた侍の末裔、志葉家十八代目当主であるシンケンレッド、志葉丈瑠様だ!さぁ、恐れ入って隙間に還るか、殿の刀の錆となるか、しかと……」と、『水戸黄門』の「格さん」役でお馴染み伊吹吾郎さん演じる家老のジイこと日下部彦馬の時代劇さながらの口上を「ジイ、長い」とクールに遮り、腰から万能刀「シンケンマル」をスラリと抜くと肩に担ぎ、「参る」と短く告げてナナシ連中と斬り結び始めるシンケンレッド。サイキックラバーによるOP主題歌「侍戦隊シンケンジャー」がBGMに流れる中、シンケンレッドのスーツアクター福沢博文さんによる、余裕と大胆さを併せ持った、色香さえ漂う華麗なチャンバラアクションがこれでもかと披露される。相手は複数なのに、それをたった一人でバッサバッサと倒していく、我らが “殿” の姿のなんと美しいことか……見返す度にカッコよすぎて涙が出そうになる。
このオープニングアクションだけでも本当に一見の価値アリなので是非観てほしいのだが、その後のドラマパートでも怒涛の展開の中で交わされる短い台詞の一つ一つが冴え渡り、 “殿” である志葉丈瑠の元へ集まるシンケンジャーの家臣一人一人も、彼らと敵対する外道衆たちも、一筋縄ではいかない個性的なキャラクターたちが揃っていること、そしてそこにはたくさんのドラマが隠れさていることを予感させるシーンが続き、お試しで観始めた人ももうなかなか途中停止ボタンが押せないと思う。第1話ではシンケンジャーたちが操る式神や武器の紹介、志波家と敵の首領ドウコクとの因縁、外道衆はなぜ一度倒しても巨大化して復活するかなど、作品のチュートリアル的な部分も多いのだが、それが一切説明臭くないどころか、キャラクター同士の会話の中でテンポよく描き切ってしまうところに、今や『映画刀剣乱舞』や『岸辺露伴は動かない』などのヒットを連発する超人気脚本家、小林靖子先生の手腕をまざまざと感じる。
クライマックス、それまでの生活や夢を捨て外道衆と戦う覚悟を決めた家臣たち4人と殿様が全員でシンケンジャーになる初変身シーンもまた凄い。ドン……!ドン……!ドンドンドン!と陣太鼓が響く中、黒子によって志葉家の家紋入りののぼり旗と陣幕が次々と立てられ、中から袴姿に召し替えたシンケンジャーの五人が現れるという、時代劇の要素をふんだんに取り入れた登場にまず驚く。筆と携帯電話をモチーフにした変身アイテム、ショドウフォンを掲げ、「一筆奏上!」の掛け声と共に中空に書いた「火」「水」「天」「木」「土」の文字が各々のマスクに張り付き、この世で一番カッコいい「顔面に漢字が書いてあるヒーロー」が爆誕する。「天下御免の侍戦隊!」と殿が口上を上げると、恭しく周囲に座していた家臣たちも立ち上がり「シンケンジャー!参る!」と見得を切る。もうテンションブチ上がりだ。ここから一気に5人のシンケンジャーと外道衆たちとの大迫力のチャンバラアクションが始まるのだが、『シンケンジャー』では時代劇と同じく「ヒーローも斬られれば死ぬ」というルールが適用されているため、戦い方がわりかしシビアであり、敵からの斬撃をかわしたり避けたり、剣で受けたりする、「守り」のアクションも見どころのひとつだ。シンケンレッドと言えばこれ!と挙げる方も多いだろう「背受け」も、まさにこのような背景から生まれたポーズだろう。「斬るか、斬られるか」という緊張感は戦闘シーンにピリリとした空気感を醸し出し、それが「現代を生きる若者が、なぜ命を賭して『侍』という生き方を選ぶのか」というドラマパートのシリアスさに繋がっていくのも良い。
能や狂言、歌舞伎、そして現在のTVドラマの時代劇に至るまで、悪を成敗する正義のヒーローのケレン味たっぷりな活躍、そして殿と家臣という主従関係から始まるアツい「忠義」の物語は、長きに渡り人々を熱狂させ続けてきた。『シンケンジャー』の素晴らしいところは、そんな時代もののノウハウを生かしつつ、舞台を現在に置き換えることで新たな「友情」と「使命」に揺れる複雑な人間ドラマを作り上げているところだ。自分は一体何者であり、何になり、どんな風に生きるのか。先祖の代から続く戦いの中で、自分と仲間たちの未来にどこまでも「真剣」に生きようとする彼らの青春群像を、是非心ゆくまで楽しんでほしい。
次回は『超力戦隊オーレンジャー』をご紹介します。ぜひご期待ください。
※スーツアクター情報は本人調べ
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