イ・ジョンソクと言えば、“新・韓流四天王”と言われることもある俳優のひとり。筆者はコロナ禍以降に韓国ドラマにハマった身なので完全に後追いなのだが、数年間、折を見て過去作品を視聴していき、彼が四天王に君臨する意味を理解した。
ルックスが良い人は山ほどいるが、ジョンソクの“主役感”は凄まじい。マンガから飛び出してきたかのような抜群のスタイルに端正な顔立ち、爽やかな雰囲気はもちろん魅力的だ。しかし、それ以上に素晴らしいのが、その卓越した演技力である。
ジョンソクは2005年、ソウルコレクションで最年少男性モデルとしてデビュー。アイドルになる一歩手前で、役者の道を選んだ。2010年、ドラマ『検事プリンセス』で俳優としてのキャリアをスタートさせると、2作目『シークレット・ガーデン』の天才ピアニスト役で注目を集める。
そして、『ゆれながら咲く花』や『君の声が聞こえる』における不遇な青年役で人気に火が点くと、2014年、脱北した天才外科医を演じた『ドクター異邦人』と、訳あり放送記者を演じた『ピノキオ』で、不動の地位を確立。
以降も、『W-君と僕の世界-』の元射撃選手/社長役、『あなたが眠っている間に』の新人検事役、『ロマンスは別冊付録』の天才作家/編集長/大学教授役など、専門性の高い役柄をキリリとこなし、また、あらゆる女性俳優とのケミストリーで視聴者をときめかせてきた。
一方、映画では悪役に挑戦。2017年公開のノワール作品『V.I.P. 修羅の獣たち』ではサイコパス殺人犯を演じ、高い評価を得ている。
ジョンソクは、2019年から2021年まで兵役代替服務に従事し、2022年にドラマ『ビッグマウス』の弁護士役で復帰。同作で「MBC演技大賞」大賞を受賞し、韓国エンタメ界になくてはならない俳優の完全復活を知らしめた。
次回作はまだ未定なので、今後どんな難役に挑むのかと楽しみで仕方がない。今回は、そんなジョンソク出演作品の中でも、ぜひ観ていただきたい5作品を紹介しよう。
幼少期、目の前で父を殺されたことを機に人の心が読めるようになったスハは、事件の目撃者として証言してくれた恩人ヘソンを探していた。その裁判から10年後。高校生となったスハは国選弁護士として働くヘソンと偶然知り合い、自身の能力を使って仕事の手助けをするように。
良きコンビとなった2人は、徐々に惹かれ合っていく。しかし同じ頃、スハの父を殺したジュングクが出所。スハとヘソンへの復讐心を燃やしていた。
国選弁護士や検事といった法律家たちの熱き想いが交差するリーガルドラマ。大きく2つの事件があるのだが、その絡め方が非常に上手く、脚本の巧みさを感じられる。
ヘソンが、彼女の人生に困難をもたらした同級生の検事と再会し、徐々に過去を許し、真実や正義のために業種を越えて手を組むようになる展開も胸熱。放送禁止ワードの多発でピー音が続く場面もあるなど、箸休め的なコメディ演出も冴えている。
ジョンソクは特殊能力を持つ影ある男子高生スハを演じているのだが、“ヌナ(※年下男性から年上女性への呼称)”を守るために真っ直ぐ突き進む年下男子ぶりが最高。スター街道を決定づけた作品というのも頷ける。
相手役は、『Mine』などのイ・ボヨン。美しい見た目とは裏腹に怠惰な性格で、悩むと回転扉を歩き続ける変わり者キャラをさらりとこなしている。ちなみに、ヘソンの同僚グァヌを演じるのは、『シークレットガーデン』でジョンソクと共演していたユン・サンヒョン。物腰柔らかく人の心を大切にするグァヌと、青二才な面が愛おしいスハによる恋愛対決は、なかなか良い勝負となっている。
父が関与した火災事故の影響で家族を失った少年ハミョンは、助けてくれた老人ゴンピルの息子ダルポとして生きることにする。ダルポは30年前に死んでいるが、ゴンピルは海の神様の力で息子が帰還したと信じており、現実に向き合うと気絶してしまう。
そのため、ダルポの弟ダルビョンとその娘イナもハミョンの存在を受け入れ、4人で暮らし始める。しかし、年頃になったハミョン。家族を陥れたMSCの報道記者チャオクに恨みを抱きながらも、その娘で自身の“姪”であるイナへの想いを膨らませていく。
成人後、イナはチャオクに憧れ、ハミョンはチャオクに立ち向かうため、別々の局で報道記者に。本作は、彼ら2人が同期と切磋琢磨し、世間に揉まれながら“記者の本分”を追求していくお仕事ドラマとなっている。
ユニークなのがイナの設定で、嘘をつくとしゃっくりが出る「ピノキオ症候群」というものだ。“嘘も方便”ができない彼女は、どの面接でも落とされるが、MSCはそれを逆手に取り、“真実のみ伝える局”だとアピールするためにイナを広告塔に起用…という、皮肉めいた流れに。そこだけファンタジーだが、実際に起こりうる過熱報道や情報操作なども描かれており、地に足着いた作品である。
ハミョンを演じたのはジョンソク、イナを演じたのはパク・シネ。現時点において早くも円熟味のある2人だが、この作品ですでに脂が乗りまくっている。ジョンソクは、世間的に許されない関係へのもどかしさや、復讐と使命の狭間で揺れる気持ちを細やかに表現し、ドラマにぐいぐいと引き込んでいく。
シネは、特殊体質によって人一倍傷つき悩みながらも逞しく成長していく、誰もが応援したくなる主人公像を構築。また、あまりにも自然なしゃっくりで、「ピノキオ症候群」に現実味をもたらしている。
残酷な連続婦女暴行事件が発生し、警視イドは脱北者グァンイルが主犯であると確信する。だがグァンイルは、韓国の国家情報院と米国のCIAが手を組んで亡命させたエリート高官の息子。国際関係に響かぬよう、両組織によって保護されていた。
グァンイルはVIP待遇のもと凶行を続け、イドは捜査に行き詰まっていく。そんな中、グァンイルを追って脱北した保安省工作員のデボムがイドを訪ね、とある策を持ちかける。
『新しき世界』、『The Witch/魔女』、『楽園の夜』など、ノワール作品に定評あるパク・フンジョン監督作。同監督らしく、容赦ないスプラッターシーンや骨太な物語展開に痺れる作品だ。それぞれ立場や思惑などが異なる3者が、殺人鬼グァンイルのあまりの鬼畜ぶりによって関係性が変化していく様に目が離せなくなる。
国家情報院要員のジェヒョクを演じたのはチャン・ドンゴン(映画『友へ チング』など)、警視イドをキム・ミョンミン(ドラマ『ロースクール』など)、北の工作員デボムをパク・ヒスン(ドラマ『マイネーム: 偽りと復讐』など)が演じるなど、韓国を代表するベテラン俳優たちが集結。
そんな彼らと渡り合って強烈な演技を見せたのが、グァンイルを演じたジョンソクだ。涼しげな面持ちで残虐行為に及んで警察を嘲笑する姿は、吐き気を催すレベルの憎らしさ。ジョンソクの俳優としての底力を感じさせる一作となっている。
元人気コピーライターのダニは離婚後、崖っぷちに立っていた。家もお金もコネもなく、結婚後のブランクのせいで再就職は絶望的。そこで、頼れる弟分ウノの屋根裏部屋にこっそり住み始め、さらにはウノの職場の求人に応募することに。
経歴をあえて低く詐称したことで、晴れて出版社の雑用係として採用されたダニ。人生の再スタートを切り、ウノとの関係も徐々に変わっていく。
物語の舞台となる出版社は、30名ほどの中小企業。組織内の風通しは良いが、各プレイヤーが全力で取り組むことを望まれている。そして、新人組のやらかしや著者とのコミュニケーションミスなど予期せぬ出来事が起きれば、チーム一丸となって乗り越えていく。
彼らが仕事を通して人間的に学びを得てゆき、会社全体でステップアップしていく様子が描かれており、その人間臭さが心に染みる作品だ。本への愛も感じられ、観賞後は読書したくなること請け合い。
ジョンソクが演じているのは、天才作家/敏腕編集長/大学教授のウノ。兵役代替服務前に選んだ作品ということもあり、ビジュアルの完成度が素晴らしい。聡明さが滲み出ており、洗練されたファッションも非常に似合っている。
また、公の場ではクールに振る舞っているのに、主人公の前ではかわいい弟となり、気持ちを抑えきれなくなると積極的に異性アピールし始めるという、3段仕立てのギャップがたまらない。ジョンソクの魅力を堪能し尽くせる極上の作品である。
チャンホは、勝率10%以下の三流弁護士。うだつは上がらないが、看護師の妻ミホと義父と温かな家庭を築いていた。しかし、とある事件に関与したことで平和な日々が崩壊。自動車事故に遭って薬物検査で陽性反応となった上、勤務先にて大金・麻薬・拳銃などが発見。闇社会を操る帝王“ビッグマウス”に仕立てられ、牢獄入りになってしまう。
常に命の危険に脅かされる中、チャンホは本物のビッグマウスになりきることを決意。同時に、ミホと共にビッグマウスの正体に迫っていく。
刑務所ドラマの定番である、底辺からのし上がり最終的に支配者になるという筋書きに、真の黒幕や目的を暴くサスペンス要素を掛け合わせたドラマシリーズ。
極悪人だらけの空間で生き延びるには、あらゆる種類の“力”が必要となり、敵と対峙するには常に裏の裏をかかなくてはいけない。誰がビッグマウスなのか予想のつかない中、主人公が刑務所内外で打ち出す新たな一手にハラハラが止まらない。
チャンホを演じたのは、ジョンソク。序盤のちょっと頼りない感じから、“実は本物のビッグマウスなのでは”と思わせるほど凄みが増していくところに、様々なキャラクターを演じてきたジョンソクの芸達者ぶりを感じる。
ミホを演じたユナ(少女時代)との相性も抜群。普段は尻に敷かれているチャンホの本気モードにミホが命懸けで応える、という夫婦愛が尊い。2人は同作で「MBC演技大賞」ベストカップル賞にも輝いている。
3位はジェジュン主演のラブコメ『悪い記憶の消しゴム~My Memories~ 』