誰が“白雪姫”?韓国ドラマ『白雪姫には死を~BLACK OUT』胸糞悪いが引き込まれるミステリー
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誰が“白雪姫”?韓国ドラマ『白雪姫には死を~BLACK OUT』胸糞悪いが引き込まれるミステリー

2024.10.09 18:00

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この1ヶ月ほど、「恥を知れ!」「どの面下げて!」と、架空の話でありながらも幾度も怒りを覚えたドラマがある。『白雪姫には死を~BLACK OUT』、だ。

“勧善懲悪”をテーマにしており、悪事に関与する人物がわんさか出てくるのだが、その誰しもが罪の意識ゼロ。自分や家族の保身のためなら何でもやる、その理由ならば罪も正義だ、と主張するのだ。根底にあるのは、欲にまみれた嫉妬心。この穢らわしい世界に早く正義の鉄槌が下されますように、と祈るように視聴を進めていた。

本当に自分がやったのか?記憶の破片を拾い集める主人公

『白雪姫には死を~BLACK OUT』
©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.

主人公は、韓国大学医学部への進学を控え、順風満帆な人生を歩んでいた男子校生ジョンウ。期末試験の最終日。両親がハワイ旅行中で留守のため、彼は友人たちと一緒に自宅で飲む予定だった。しかし、恋人ダウンから連絡を無視され、ダウンが浮気していることも幼馴染ボヨンから聞かされ、腹が立ってひとり酒を煽ることに。すると翌朝、突如、ダウンとボヨンの殺人容疑で逮捕されてしまう。

酩酊はしていたが、殺人には全く身に覚えのないジョンウ。だが、すべての証拠がジョンウを犯人だと指し示し、警察は、「泥酔して偶発的な殺人を犯した場合、強力な自己防御メカニズムが発動して記憶喪失状態になり自分の行動を全く覚えていない」とブラックアウト説を主張。最終的に懲役10年の判決が下される。同級生ドンミの面会に励まされつつ過酷な日々を耐え抜いたジョンウは、出所後、事件の真相を明かそうと奔走するー。

人間の醜悪さを炙り出すヴィレッジミステリー

本作は、2010年に刊行されたドイツ人作家ネレ・ノイハウスの小説『Snow White Must Die』をもとにしたドラマ。

舞台となるムチョン村は、窃盗などの軽犯罪しか起きない平和な地域であり、たまたま村に立ち寄った学生ソルがそのまま住み着くほどで、ソウルのエリート刑事サンチョルの左遷先にも選ばれる。

白雪姫には死を~BLACK OUT
©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.

だがジョンウの出所後、村人たちの化けの皮は剥がれていく。きっかけとなるのは、ジョンウの母グムヒが転落した陸橋事件。ムチョン警察署の面々はグムヒの自殺未遂として片付けようとするが、サンチョルは、彼女の転落前の行動や落下角度などから怨恨絡みの事件と推測。一方ソルも、グムヒが意識不明なのに村人たちの誰もが心配していない状況を不審に思う。

白雪姫には死を~BLACK OUT
©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.

そんな中、ボヨンの白骨死体が近隣の廃校で発見。ジョンウが2件の殺人事件を遂行するにはあらゆる点で辻褄が合わないことがわかる。サンチョル、ジョンウ、ソルは協力し合うことになるが、ジョンウの同級生である刑事ビョンムと看護師ミンス、その2人の父親、ジョンウにとって父親のような存在である警察署長グタク、その部下である刑事課長ヒドは、何かを隠蔽するためか捜査を妨害していく。

白雪姫には死を~BLACK OUT
©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.

さらには、地元の議員ヨンシルと病院長ヒョンシクというエリート夫婦も意味深に登場。

白雪姫には死を~BLACK OUT
©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.

話数が進むごと、村人たちがいかに野心・嫉妬・執着などのドロついた感情を持っているかが炙り出されていく。

演出は映画『火車 HELPLESS』などのビョン・ヨンジュ監督、脚本はドラマ『約束の地 ~SAVE ME~』のソ・ジュヨン作家が担当。『約束の地 ~SAVE ME~』と同じく、狭いコミュニティに渦巻く負の要素を凝縮させた作品となっている。

主人公と刑事の関係に涙。脇を固める俳優たちも劇を盛り上げる

ジョンウを演じたのは、ドラマ『サムシクおじさん』などのピョン・ヨハン。地域いち裕福な家庭で優しい両親から愛情をたっぷりと注がれて育ち、顔・頭・運動神経共に良く、美しい恋人までいる、まさに太陽のような存在の高校生が、事件によって転落、混乱を抱えた大人になった様を悲壮感たっぷりに演じている。パンドラの箱を開けたことで精神的にボロボロになっていくジョンウの表情や佇まい、ひとつひとつに胸を締め付けられ、その姿が鑑賞後に切ない余韻をもたらす。

白雪姫には死を~BLACK OUT
©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.

サンチョルを演じたのは、ドラマ『浮気したら死ぬ』などのコ・ジュン。妻を殺害されたことですべての犯罪者を憎み、“犯罪者”のジョンウにも敵対心剥き出しだったが、事件にまつわる違和感を徹底的に追求し、ジョンウの良き理解者となっていく刑事を熱演。閉鎖的なコミュニティの中、損得勘定なしで真っ当な意見を述べるサンチョルに、何度胸のすく思いをさせられたことか。また、共に命懸けで真相解明にあたっていく中、ジョンウとサンチョルの間に信頼関係が構築されていく過程も見どころのひとつで、事件終結後の2人のやり取りにはその都度、涙を誘われる。

白雪姫には死を~BLACK OUT
©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.

早々からクロだと示される警察署長グタクを演じたのは、ドラマ『寄生獣 -ザ・グレイ-』などのクォン・ヘヒョ。さすが名優、“自身にとっての正義”を貫き通す権力者をリアリティたっぷりに演じ、視聴者の神経を逆撫でしまくる。

白雪姫には死を~BLACK OUT
©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.

亡くなったボヨンの父ドンミンを演じたチョ・ジェユン(ドラマ『還魂』など)と、刑事課長を演じたチャン・ウォンヨン(ドラマ『マスクガール』など)による、怒りと悲しみが頂点に達した時の表情も強く印象に残っている。

白雪姫には死を~BLACK OUT
©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.

結局、誰が白雪姫だったのか?(ネタバレあり)

本作は、題名にもあるように、かの有名なグリム童話『白雪姫』の要素を組み込んだミステリーである。

では、登場人物たちは誰がどのキャラクターに当てはまるのか?白雪姫は、「雪のように白い肌、血のように赤い頬、黒々とした髪を持つ美しい人」。その特徴を踏まえると、ムチョン村の誰もが認める美人ダウン=白雪姫と考えられるのがまず一つ。とすれば、白雪姫を間接的に殺したことになる議員ヨンシルが王妃、亡くなった白雪姫を保管していた同級生スオが小人、白雪姫を発見したジョンウが王子、となるだろう。

だが、ジョンウが白雪姫の可能性もあり得る。『白雪姫』の原作で、白雪姫は王妃から何度も殺されかけている。ジョンウは犯罪者になったことで社会的に抹殺され(=森に追いやられ)、その後も、ドンミンから銃を向けられ、刑事ビョンムと看護師ミンスの父親たちに襲撃され、交通事故にも遭い、さらにはドンミによって殺人犯に仕立て上げられそうになる。冒頭で酩酊して熟睡しているところや、ドンミに薬を盛られて眠っているところも白雪姫のイメージにマッチする。

ジョンウを白雪姫として考えると、すべてを手にしている友人の息子ジョンウを妬むグタクこそが王妃であり、グタクが捏造した情報によってジョンウを殺そうとするも最終的に逃したドンミンが狩人、ジョンウを助けるよそ者のソルが小人、ジョンウにとって救世主であるサンチョルが王子、と当てはめることができる。

また、王妃の特徴を持つ人物はもう1人いる。ドンミだ。ジョンウへの愛を拗らせ、白雪姫ダウンの死を隠蔽し、“ジョンウの最愛の人”になったつもりだったが、突如ソルが現れたことで激昂している。ジョンウがソルと出会った際、ダウンのイメージと重ね合わせていたことからも、その案もあり得なくはないだろう。

白雪姫には死を~BLACK OUT
©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.

……と、これらはすべて筆者が勝手に考えたことなのだが、このように誰が王妃なのか、狩人なのか、小人なのかと、考察を楽しめるのも本作の醍醐味と言えるだろう。最終回の配信前に1話目から再視聴してみたが、新事実の発覚ごと、点と点が線へと繋がっていく緻密なプロットがお見事。その過程で、『白雪姫』の設定がレイヤー状になっているのではないか、と思い浮かんだ。読者の皆さんも、誰を“白雪姫”と捉えるのか、ぜひ考察を楽しんでみてほしい。

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