カートゥーン作家を夢見た少年が映画監督に。青春コメディ『ファニー・ページ』
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カートゥーン作家を夢見た少年が映画監督に。青春コメディ『ファニー・ページ』

2024.01.26 20:00

子役時代にノア・バームバック監督の名作『イカとクジラ』に出演したオーウェン・クラインが映画監督デビューを果たした『ファニー・ページ』は、16mmの懐かしいタッチの映像で綴られるオフビートでひねくれた青春コメディです。作品をどうかたち作っていったのか、カートゥーン作家を夢見た少年がどのように映画監督になったのか、オーウェン・クライン監督にうかがいました。

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© 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

──『ファニー・ページ』は非常に生き生きとした映画です。ただそれは「カートゥーン」についてだけでなく、すでに時代遅れかもしれない文化やアートに惹かれる人々についても豊かに描いているように思います。

オーウェン・クライン:もしあなたがニューヨークに住んでいて、古いカルチャーに夢中だったら、自然とレコードショップやビデオストア、本屋、そしてコミックストア、アートハウスの劇場に通う人たちに囲まれる生活を送ることになるでしょう。NYにはこうした世界が重なりあう場所が数多くあります。そのようなアーティストやカルチャーに夢中な人たちが、私の生活といつも繋がっていたのです。

幼少期の頃の夢は、カートゥーン作家になることでした。それも9、10歳の頃に一番なりたかったのは、カートゥーンの新聞連載作家です。私は、人々に愛されるウィットに富んだキャラクターを作り出して「ピーナッツ」や「ガーフィルド」と並んで連載をしたかったのです。私にとってコミックは自己表現であり深い自己投影でもありますが、ナラティブなアートフォームの中で一番得意な表現方法で、おそらく映画よりも自分に適していると思います。10代の頃、オフビートなカートゥーン作家たちの、彼ら自身のパーソナリティに根差した描き方から学んだことは、私が映画を作る際に一つの下地となりました。

この脚本を約10年前から書き始め、キャラクターに命を吹き込む手がかりは掴んでいましたが、物語を仕上げるまでにはとても長い時間がかかりました。その頃にはいくつかの短編を作っていましたが、長編の物語を作るのにはまだ慣れていなかったのです。そこで脚本をジョシュ(・サフディ)とベニー(・サフディ)の会社、エララ・ピクチャーズに送りました。彼らプロデューサーたちが私が作り上げようとしている物語の中に普遍性を見出してくれました。そして、さらにそれを自分のものにするべきだと促し、この物語が持つ可能性をくまなく探し出すよう背中を押してくれました。この映画の本質を掴むのには長い時間がかかり、何度も何度も改稿を重ねましたが、それが結果的に本作をより強固なものにしてくれました。

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──エララ・ピクチャーズとはどのような繋がりがあったのでしょうか。

オーウェン・クライン:初めてジョシュと出会ったのは、まだ私が14〜5歳でちょうど映画作りを始めた頃でした。私の妹が主演の映画を作り、それをジョシュがとても気に入ってくれたのです。ジョシュとベニーは小規模の映画が持つ可能性の限界にいつも挑戦していて、それを幼い時に間近で見れたことはとても意義深いことでした。サフディ兄弟のいくつかの短編で芝居をし、時にはスタッフとして参加して、彼らの映画制作の過程を見ることで多くのことを学びました。彼らの映画がどれだけインディペンデントに制作されているか、また想像以上に即興的な要素が多いかということも学びました。私が短編を彼らに見せると、彼らはフィードバックをくれました。その師弟関係はノア・バームバック監督の『イカとクジラ』(2005)で演技をした時と同じぐらい私の映画人生において非常に重要な出来事でした。

『ファニー・ページ』の制作中、サフディ兄弟とロナルド(・ブロンスタイン)はいつでもそこにいてくれて、何かがうまくいかなかった時には、どのように物語を進めるべきかをよりクリアにできるよう、彼らは別の可能性を積極的に探そうとしてくれました。この映画は、タッチやトーンの側面からも、キャラクターの側面からもコメディ映画だと言えるでしょう。かなり歪んだ物語ですが、その核には感情が根付いています。サフディ兄弟はそうしたことをやるのが非常に得意なフィルムメーカーです。彼らの作品に登場するキャラクターにはある種の精神的な負荷がかかっているかもしれませんが、彼ら全員に感情的な思いやりと配慮がなされていると思います。

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──ショーン・プライス・ウィリアムズ(*)の撮影はニュージャージーの寒々しい夜の時間と、趣のあるくすんだ室内、そしてそこにある役者の演技へのフォーカスが素晴らしい形で組み合わされていました。

オーウェン・クライン:スーパー16mmで撮影したことは、あなたが指摘したような感触を実現する助けになりました。本作の撮影場所には少々制約があり、例えば普段ならたくさん蛍光灯がある場所を避けますが、今回はそのまま使うことにしたのです。ショーンの撮影手法は「俳優を映すためにカメラマンはいる、特に俳優の顔を映すために」という考えに基づくもので、クローズアップを好みます。クローズアップによって、俳優たちの表情の機微で物語を伝えることができるのです。そして編集にも一定の自由を与えてくれます。彼はたくさんのユーモアと愛情をこの作品に注いでくれました。この映画にたくさんの視覚的なおかしさを映し出し、また彼は俳優をユニークに捉える方法を数多く発見しました。彼は挑戦することが大好きで、いつも大胆で意外な決断をするよう私の背中を押してくれました。

*サフディ兄弟作品の他、『アイヌモシリ』(2020)『KUICHISAN』(2011)など日本人監督の作品にも数多く参加している

(翻訳:川原井利奈)

『ファニー・ページ』

ファニー・ページ
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成人漫画の描き方を教わっていた恩師を突然の事故で亡くしたロバートは、高校を中退し、大学受験も放棄してカートゥーン作家になることを決意。両親の反対を押し切って汚いアパートの地下に引っ越し、そこに住む中年男性たちと共同生活を始めるが…。

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