人生の岐路に立たされた時、あなたはどうする?『ロー・タイド』監督の深いテーマとは
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人生の岐路に立たされた時、あなたはどうする?『ロー・タイド』監督の深いテーマとは

2024.01.29 15:00

ニュージャージーの海岸沿いにあるビーチタウンを舞台に、犯罪に手を染め、追い詰められていく少年たちの結末に、苦い後味が残る青春ドラマ『ロー・タイド』。本作がデビュー作となったケヴィン・マクマリン監督に、企画の立ち上げの背景や、影響を受けた作品、そして本作の深いテーマについてうかがいました。

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© 2018 Low Tide Film, LLC All Rights Reserved

──素晴らしいデビュー作でした。本作の企画はどのように始まりましたか?

ケヴィン・マクマリン:コロンビアのフィルムスクールを卒業してすぐに撮った短編がきっかけでCMの仕事がいくつか入りました。そのお金を貯めることで脚本の執筆に数ヶ月かけることができました。卒業してからこの脚本が完成するまでの1年間はそのように過ごしました。

その後、資金集めのために短編を制作しましたが、それにはロケハンの意味合いもありました。私は本作を(ニュージャージーの)ジャージー・ショアのある特定のエリアをイメージして書きました。子どもの頃、自転車でポイント・プレザントにある「スチュワートのルート・ビア」(*)によく行っていました。そこはこの映画にとって重要な場所で、本作に出てくる他の場所も個人的な繋がりのある所ばかりでした。

映画の舞台となる場所に詳しかったことは、映画を作る上でとても役に立ちました。ジャージー・ショアは美しい港をもつ漁業コミュニティがあり、元々映画映えする場所です。さらに少し行くとビーチと遊歩道がある巨大な観光地です。この2つの要素を私はとても興味深く思い、それが映画の出発点になりました。なぜなら地元の人々はある意味で観光客を嫌っているのに、経済的には彼らに頼っているからです。

*アメリカ全土にある1950年代のクラシックなファーストフードレストラン

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© 2018 Low Tide Film, LLC All Rights Reserved

──80年代終わりから90年代初めの夏を強く感じさせるムードやスタイルを映画の随所に感じました。

ケヴィン・マクマリン:ティーンエイジャーたちの視点で脚本を書いていくことは、私自身が当時に戻ったような気持ちになりました。加えて、ポイント・プレザントのようなロケーションは本当に時代を感じさせるものが残っていて、脚本から現代性をなくすこと、ある特定の時代を感じさせないようにすることに非常に役立ちました。1985年や1991年のような特定の年代を作り出す予算はありませんでしたが、携帯電話や現代のポップミュージックなどシンプルに幾つかの要素を取り除けば、観客はノスタルジックな気持ちになれるのです。

例えば喧嘩の場面でキャラクターが互いに対立しているのを見るのは楽しいですが、それが電話での会話や、テキストを見るだけだったとしたら、その楽しさは半減したことでしょう。本作のそのような物語のあり方には、どこか純粋なものを感じていました。主に撮影に使われているハイランドやポイント・プレザントのようなジャージー・ショア周辺の場所には、大きなチェーン店やスターバックスさえありませんでした。どこかレトロなもの、時代を感じさせるものを作りたかったら、ここでは大きな予算をかけずにそれが実現できるのです。

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© 2018 Low Tide Film, LLC All Rights Reserved

──本作にはあなたにとって重要な映画や映画監督からの強い影響がありますね?

ケヴィン・マクマリン:スピルバーグスタイルの映画を作ろうという意識は確実にありました。突如急転して、何か暗い方向へと進む物語です。私は古典を撮りたかったのです。悲劇的なテーマで、何か視覚的表現を生み出しながら、それをティーンエイジャーの主人公たちに当てはめる形で。

ジョン・ヒューストンの『黄金』(1948)は、強欲と海賊的な要素が絡み合う点で非常に強い影響を受けましたし、ティーンムービーの名作からも影響を受けています。ピーター・ボグダノヴィッチの『ラスト・ショー』(1971)、フランシス・コッポラの『アウトサイダー』『ランブルフィッシュ』(いずれも1983)、そしてライアン・ジョンソンの『BRICK ブリック』(2005)などです。コーエン兄弟の映画も大好きです。本作では全ての要素を少しずつ誇張しつつも、リアルに感じられるようにしたかったのです。『BRICK ブリック』のような映画を研究して、物語的にそれらを分解してどのように作られているかを理解しようと努めました。

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──本作には一定の緊張感とケイパー映画の要素がありますが、そこには深いテーマが潜んでいるようにも思います。そこにはどのような考えが取り入れられたのでしょうか?

ケヴィン・マクマリン:この映画は、あなたが幼い頃にとった選択について描いています。人生であなたは何をするのか、何を進んで行い、何かを深掘りしたいと思ったときに何を犠牲にするのか。人生の岐路に立たされた時、あなたはどうするのか。もしあなたが衝動的な年頃のティーンエイジャーで、何か大きな転換期にいるか、もしくは転落の危機の中にいて、たった1つの誤った決断がその後に続くさらなる悪い展開をもたらすようなときに、です。本作のトーンは初期のスピルバーグ映画のようでありながら、よりダークでスリラーの要素を含んでいます。脚本の時点での私のゴールは、ページをめくるのを止められないようなものを作り、観客の興味を引くことでした。初めの頃はこの脚本を「海賊の物語」だと表現していましたが、作品にあった俳優たちをキャスティングできたことで、そこに感情が足されたのです。彼らに演じてもらえたことは非常にラッキーなことでした。

(翻訳:川原井利奈)


『ロー・タイド』

ロー・タイド
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ビーチタウンに住むアラン、レッド、スミッティは、夏になると都会からやってくる金持ちたち“ベニー”の別荘に忍び込み金目の物を盗んでいた。アランの弟・ピーターは仲間外れにされていたが、ある夜、ベニーの家から逃げようとするスミッティに遭遇する。

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