報われる保証のない戦いの中で「心の支え」になるものとは… 張本智和、アジア覇者が強行日程でTリーグに出場し続ける理由
アジア卓球選手権で、日本勢としては50年ぶりとなる優勝を果たした日本卓球界のエース、張本智和。悲願の五輪金メダルに向け、国際試合を転戦して腕を磨き続ける一方で、Tリーグへの出場も可能な限り続けている。その理由とは
世界最高峰のMMA団体であるUFC(Ultimate Fighting Championship)が、アジアの有望なMMAアスリートたちに世界の大舞台への道を開く最大級の機会『ROAD TO UFC シーズン2』が5月27日(土)、28日(日)に上海で開催されます。フライ級・バンタム級・フェザー級・ライト級の4階級のトーナメント戦(と非トーナメント戦)が行われ、日本からは7選手が出場します。今回、フライ級トーナメント戦の最有力優勝候補として注目される20歳のPANCRASEフライ級第8代王者・鶴屋怜選手に、トーナメント出場の意気込みや、若きMMAファイターたちの憧れの舞台であるUFCにかける想いを語っていただきました。
——まずは今回の『ROAD TO UFC シーズン2』参戦にあたっての心境をお聞かせください。とりわけ鶴屋選手はUFC参戦を目指していることをこれまで明言されてきましたが、この出場機会をビッグチャンスととらえましたか?
鶴屋:1年かけてのトーナメントへの挑戦ということで、正直言うと、たとえばUFCの登竜門とされるデイナ・ホワイトのコンテンダーシリーズに出場できた場合などと比べると「道のりが長くなってしまうな……」という気持ちもありました。とはいえ、このチャンスを得られたからには、ここで3戦、しっかりと決めて勝って優勝し、現在6戦6勝6フィニッシュという戦績を9戦9勝9フィニッシュにして自分の強さを印象づけたいと思っています。
——『ROAD TO UFC』でインパクトを残すことで、「UFCファイター」となってからの自分の期待値もより上がると考えているのでしょうか。
鶴屋:そうですね。僕としては、欧米人が見たらアジア人の風貌はみんな同じように思われているんじゃないかな?といった印象もあって。だからこのトーナメントを勝ち上がっていくなかで、それぞれの試合内容をよりいいものにして自分のことを覚えてもらえれば、契約を勝ち取っていざ本戦に出るとなった時に「すごい奴が来たぞ」と、存在感を示せるのではないかと考えています。
——なるべくダメージもなく次へと勝ち進んでいく必要があり、その先に契約もかかっているとなると、判定になってでも勝利を確実に手にするという考え方も選択肢にはあると思いますが、鶴屋選手はあくまでも積極的に攻め、フィニッシュには特にこだわっていくということですね。
鶴屋:はい。勝ち星と一本/KOの数が一致しているということは自分のアピールポイントなので。
——今回出場するトーナメント全体をご覧になってみての第一印象は?
鶴屋:出場選手たちの戦績を見て、アジアの強豪が揃っていると思いました。日本人選手も所属しているチームアルファメールで練習しているというインドのスミト・クマール選手(8戦8勝4KO・TKO/4一本)は無敗というだけでなく僕と同じように全てフィニッシュしている選手ですよね。2回戦で当たる可能性のある韓国のイ・ジョンヒョン選手(8戦8勝4KO・TKO)にも注目しています。ただ、自分も対戦している秋葉太樹選手との試合を観る限り、PANCRASEのランカーとは変わらないのかな?という印象ではあります。
——他の階級で、注目している日本人選手や気になるカードなどはありますか?
鶴屋:レスリング出身という点で、原口伸選手。ライト級で日本人がどこまで行けるかということもあって注目しています。それから同じジムに所属している神田コウヤ選手とは一緒に優勝して、一緒にUFCへの切符を掴みたいですね。
——神田選手は鶴屋選手が物心つく前の年の頃から練習しているのですよね。
鶴屋:同じ写真に写っていたりするので事実としてはそうなんですけど(笑)、あんまり小さい頃から話したことがないんです。コウヤくんは真面目だから。僕はサルみたいな小学生だったので全然タイプが違ったのかなと(笑)。
——鶴屋選手が5月27日に迎える初戦の対戦相手、インドネシアのロナル・シアハーン選手(7戦無敗、5KO・TKO)についての印象や、警戒している点などはありますか?
鶴屋:ストライカーですね。見た感じ「硬そうだな」というイメージがあって、そこはちょっと嫌だなと思っている部分です。肘などでカットする恐れがあるということと、パンチも硬いでしょうし。とはいえ、シアハーン選手の5つのフィニッシュはほぼ打撃ですし、試合を見ても寝技はそんなに得意ではないのかな?という印象がありますので、肘や膝などひとつひとつの打撃に警戒しつつ、自分がテイクダウンして極めに行く感じですね。自分との相性は良いのではないでしょうか。
——硬そうということですが、フィジカルも強そうな印象ですか?
鶴屋:うーん、まあちょっと試合が始まってみないと分からないかな、と。体の強い選手だったとしても意外とスタミナがないというようなこともありえますし、「力強いな!」と思ったとしても、あっさり取れてしまうこともありますから一概に判断できないというか。逆に力が弱くても全然テイクダウンできないこともあるので。向き合ってみて、しっかり対応していきたいと思います。
——初めての国際戦となりますが、対戦相手が外国人であること、そして海外で試合をすることについて、緊張や不安などはありますか?
鶴屋:一応、小学生の時に柔術の世界大会にも出場していますし、高校生の時にレスリングの世界大会にも出ているので、プロのMMAの試合では初めてではあるけれど、海外で試合するイメージはなんとなく掴めているかなと思います。対戦相手に関しても、これまで外国のファイターとも練習はしてきていますが、やってみた感じで “外国人だから” といって特別何かが強いな……と感じることはなかったです。言ってしまえば、同じ人間なので。だからそんなに気にしていないですし、海外修行をしてきた経験が活きればというところです。それに……環境としては、実はあんまり知り合いなどがいない状況のほうがやりやすいんじゃないかと思っています。何と言うか、(知っている人に)見られていることが試合に限らず練習の時でもちょっと嫌なんです(笑)。
——それは……、たとえば昨年のタイトルマッチの日は、たくさんの応援団が駆けつけてくれたことの喜びを語っていましたけれど、そういう感情とはまた別なのでしょうか?
鶴屋:そういうのが一番緊張します!逆に。友達の顔見ただけでもう泣きそうになっちゃたりして。まあこれは緊張とは違うのかもしれないけど、なんか……高まるというのかな。観戦するチケット代だって安くないですし、しかも去年のタイトルマッチはクリスマスだったので、そんな日にみんながわざわざ来てくれたことに感極まってしまって……。「だからこそ負けられない」という気持ちになりました。今回はそんなふうに感情が昂ることがないことで、やりやすいかもしれないな、と。
——自分自身の戦いに集中して専念できるということですね。
鶴屋:はい!思う存分、暴れてやろうかなって思っています!
——周りとの関係性によって負けられない気持ちが沸くという点では、チャンピオンベルトを保持する立場であることや、お父様(鶴屋浩)が代表を務めるパラエストラ千葉ネットワークを代表する1人として試合に臨むことについての心境はいかがですか?
鶴屋:背負っているものがあるから負けられないというよりも、自分が勝つことが結果的に団体やジムの名前を上げることになると考えていて。あくまでも自分の問題としてとらえています。自分ががんばることで、ついてくるものであると。
——そうやってがんばってきた道を切り拓いてきた先人として、同階級の先輩・扇久保博正選手がいますね。チャンピオンのブランドン・モレノ選手をはじめとして、扇久保選手が出場した『TUF24』出身の選手たちが現在UFCのランキング上位にいる状況について思うところはありますか?
鶴屋:そうですね。アレクサンドル・パントーハ選手がタイトルに挑戦することを考えると……今はまだ僕は絡んでいけてはいませんけど、今回がんばってUFCにたどり着けば、やっと、かつて扇久保さんが戦ってきたところに自分が挑んでいけるようになる。そう思うとワクワクしますし、ファイターとして1ステップ上の段階へ進んでいるという実感が沸きます。扇久保さんからはよく「がんばれよ」、「UFCはきっと獲ってくれる」と言葉をいただいていて、自分に託してくれているという気持ちも感じていますから、そのためにもがんばりたいですね。
——ちなみに、ゆくゆく対戦してみたい選手というのはいますか?
鶴屋:誰とやりたいかと聞かれれば、“チャンピオン” と一番やりたいです!ベルトを持っているのが誰であるかにかかわらず。そのためにも早くランカーに挑戦していきたいです。
——鶴屋選手はアメリカで実際にランカーのアミル・アルバジ選手(MMA16勝1敗、UFC4勝)と練習していたのですよね。またタイでの練習の際は、ソーシャルメディアで平良達郎選手(MMA13勝無敗、UFC3勝)とお互いに対戦表明したことで日本でも注目度が高まっている、ムハンマド・モカエフ選手(MMA10勝無敗、UFC4勝)とも肌を合わせたそうですね。
鶴屋:はい。ただモカエフ選手は試合の1ヶ月前というタイミングで(タイガームエタイジムに)来ていたので、どれくらい本気でやっていたかは分からないのですけど。やってみた感想としては、そんなに……。「全然負けないな」と思いました、何回かやったのですけど。
——同階級で躍進中のプロスペクトにその手応えというのは期待が高まりますね!そうやって実際にUFCで戦っている選手と触れて自分の力を試したり確認できるというのは励みになっていると思うのですが、より近い存在として平良選手がいます。彼が無敗のままUFCで3連勝中なのは、刺激になっていますか?
鶴屋:達郎くんは次が4戦目(vs. クレイドソン・ホドリゲス/日本時間6月25日(日)『UFCファイトナイト・ジャクソンビル』)で、自分が行く頃には多分5戦目、6戦目と試合をしているかもしれません。向こうはどう思っているか分からないですけど、自分はなるべく早くそれを越せるようにがんばっていかなくてはいけないかなって。焦ってはいないのですけれど。
——お互いにチャンピオンを目指している以上は、いつかはオクタゴンで対決する日も来るかもしれません。
鶴屋:そうですね。お互いに……まあ、自分も達郎くんとやるのはちょっと嫌だなとは思ったりしますし、それ以上に達郎くんのほうが人として優しいから、(対戦するのが)嫌だなっていう気持ちもあるとは思います。ただ自分は試合だったら関係ないので。当たっちゃったら仕方ないですね!まあ、沖縄と柏はかなり離れていますしね(笑)。
——外国の選手とやるのと変わらないということですね(笑)。
鶴屋:そうですね(笑)。
——UFC王者になるという目標を立て、今こうして着実にその夢に向かっているわけですが、そのモチベーションとなるものが何かあるのですか?
鶴屋:シンプルに、格闘技界の頂点がUFCだから、そこでチャンピオンになりたいんです。ごく純粋に。
——この世界で誰よりも強い存在になりたいと。
鶴屋:そうです。まるで子どもが仮面ライダーになりたい!と言うのと同じように、UFCチャンピオンになりたい!と思っていましたし、絶対なってやる!って。
——今、仮面ライダーに喩えられましたけど、幼い頃に憧れたヒーローはいましたか?それとも小さい頃から競技に触れていると、憧れる対象も現実的だったのでしょうか、実在のアスリートのような。
鶴屋:うーん、幼稚園ぐらいまでは生き物として宇宙人みたいというか、ものを考えているといってもワケのわからない感じだったので何とも言えないのですが、小学生になって本格的にレスリングをやるようになってからは——といっても、逃げたり「辞めたい」とか言ってましたけど——、オリンピックで金メダルを獲りたいという目標は持っていました。正直その頃は親にやらされていたという感じで、「オリンピックで金メダル獲るよな?」って言われていたような感じなのですけれど(苦笑)、それから「MMAやりたいな」と思うようになって。中2くらいかな、自分の意志で「UFCチャンピオンになる」という目標が固まっていきました。
——多感な中学2年生の時に、レスリングの金メダリストからUFCチャンピオンへと目標が切り替わったきっかけはあるのですか?
鶴屋:コナー・マクレガー選手ですね。その頃ちょうど一番活躍していました。自分が中学生になった2015年、フェザー級暫定王座をかけたチャド・メンデス戦でマクレガー選手を知って「こんな選手がいるんだ!」と。それまでも格闘技はちょこちょこと観ていたのですが、それから本格的に観るようになりました。マクレガー選手のように、好きなことを好きなようにやってお金もたくさん稼いで「こんな人生が送れたら最高なんだろうな」って当時すごくカッコ良くて。誰にもできないことだと思いました。チャンピオンになりたいという目標もそうなのですが、自分の心の根底にあるのは「常人にはできないことを成し遂げたい」という気持ちなんです。
——UFCを目指す中で、今仰っているような、前人未到のチャンピオンになるためにご自身が考えている条件は何ですか?
鶴屋:まずは、 “UFC初代日本人王者” になりたいと思っています。同じ階級には達郎くんがいるし、他にもライバルがいますけど、逆にそれが刺激になっています。みんなに負けないようにと思っています。
——力強い決意の言葉をありがとうございます。まずは『ROAD TO UFC シーズン2』での活躍に期待しています!
鶴屋:ありがとうございます。絶対に優勝しますので、応援よろしくお願いします。
<プロフィール>
鶴屋怜 TSURUYA Rei
2022年6月22日 、千葉県柏市出身。幼少期から柔術やレスリングに親しみ、高校時代にレスリング世界大会出場、団体戦全国優勝。アマチュアを経て、21年2月にMMAプロデビュー。22年12月、第7代フライ級王者の猿飛流に2Rリアネイキド・チョークで一本勝利し、キングオブパンクラス戴冠。6勝無敗6フィニッシュ。169cm、56.7kg。パラエストラ松戸所属。
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