柳楽優弥主演で、現在TBSで放送中の金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』。柳楽演じる、弟のために生きる優しい兄・小森洸人と、坂東龍汰演じる自閉スペクトラム症の弟・美路人。両親を事故で亡くしてから、2人は規則正しく穏やかな暮らしを送ってきたが、ある日、兄弟の前に「ライオン」と名乗る謎の男の子が現れたことをきっかけに生活は一変、彼らは“ある事件”に巻き込まれていく。
心温まるヒューマンドラマながら、先読みできないスリリングなサスペンスが程よく絡み合うストーリーは、完全オリジナル脚本。兄弟役の柳楽、坂東に加え、ライオンを演じる5歳の子役・佐藤大空くんの熱演が凄い!と話題を集める、今期いちの愛されドラマだ。
ドラマはそろそろ中盤にさしかかるが、そんな中、本作のプロデューサー・松本友香さんに、今回の企画の出発点やキャスティング秘話、今後の見どころなどについてお話を伺った。
──本作では大人、自閉スペクトラム症の青年、そして子どもという新しい3人組が誕生しました。この設定を思いついた経緯を教えてください。
松本: 次はヒューマンな企画をやりたい、金曜ドラマをやりたいと思って、企画を考え始めました。私は『人にやさしく』(02年)というドラマがすごく好きで、ああいう子どもと大人の組み合わせのドラマ作りたくて『3人のパパ』(17年)というドラマでプロデューサーデビューをしました。
今回は、そういう自分の好きなジャンルの中で新しい作品を作ろうと考えて、子どもと大人の組み合わせで、かつ“きょうだい児”と言われてるような兄弟と、その中に子どもが混ざったような組み合わせになるとどんなストーリーが生まれるだろうかと考えて 企画を立ち上げました。
──障害者や児童虐待など、社会が抱える問題や生きづらさなど今日的な問題も扱っています。ドラマでこうしたことを描くことの意義をどう感じていますか。
松本:毎日虐待のニュースや、最近は子どもの親権問題に関する法律も変わったと見聞きします。決して狙ったわけではないんですが、ちょうど今のタイミングにこのドラマの話題が合うんじゃないかなと。そして、普遍的な物語の中に今の社会問題を盛り込むことで、世の中の人があまり気づいていないことをうまく表現できたらいいと思っています。
──SNSなどで、「いろんなことを考えさせられる」という評価が上がっているようです。実際に視聴者や周りの方々からの反響をどのように感じていらっしゃいますか。
松本: 過去の作品では賛否両論や、作り手にとって胸にグサっと刺さる言葉もいただいてきましたが、今回は本当に優しいコメントや温かい言葉が多いんです。このドラマの世界観を受け取ってくださっている視聴者の皆さんがすごく優しくて素敵だと感じています。
──今回は、5歳の佐藤くんの演技が本当にすごいと話題を集めています。大空くんが選ばれた決め手は何だったのでしょう?
松本:今回のドラマは、メインキャスト3人のやり取りがすごく重要なので、オーディションは、セリフがある役を経験したことがある5歳から7歳の子に絞って始めました。最初70人くらいから10人に、さらに4人ぐらいまで絞り、こちらが出した要求に対してどんな変化があるのか、人と慣れたらどういう風に変わるんだろうとか、撮影期間も長いのでさまざまな変化を見られるように、時間をかけてオーディションをしました。
──その中で、佐藤くんはどうでしたか?
松本:大空くんはすごくエネルギーがありすぎて、 オーディション部屋から飛び出して走り回ったり、彼本人が持っているキツネのぬいぐるみを投げ回していて、周りは「落ち着いてー」という感じだったんです(笑)。ところが、いざ演技をしてもらうと、自然に役をやっている。それも、いわゆる子役演技ではなくて、「本当にそこにライオンという子がいます」という感じで、役にすっと入るのがすごいと思いました。ライオンという役は、ちょっと生意気で、人を振り回すようなところもあるので、大空くんの有り余ってるエネルギーをうまくお芝居の方に誘導していけたらいい感じになるだろうと思いました。
──なるほど。
松本:大空くんに決まってからは、3カ月間、週2で TBSに来てもらい、最初は鬼ごっこや木登りから始まり、いろいろなプログラムを組んで、 スタッフとも信頼関係を築くことから始めました。本当に難しいお話なので、セリフを練習してもらうというよりは、1つ1つ気持ちを説明して、どういうお話でどういう気持ちになるのかをわかってもらうということを繰り返しました。
──大空くんならではのお茶目なエピソードを教えてください。
松本:全く物怖じしない子なので、 柳楽さんの膝にもスパーンと走り込んで行くんです(笑)。スタッフの名前もみんな覚えていて、誰にでも物理的にツッコミに行ってますね。
──本作はサスペンスパートの雰囲気作りがしっかりしていますが、ドラマを作る上で、サスペンスパートをどれぐらい意識されているのでしょうか。また、何か参考にした作品はありますか。
松本: 最初はもう少しヒューマン寄りの企画だったんですが、金曜ドラマとして幅広い視聴者の方に喜んでもらえるように、サスペンス要素を絡めていきました。金曜ドラマでいえば、『最愛』(21年)や、直近で言うと『笑うマトリョーシカ』(24年)のように、サスペンスの軸をしっかりと作りたいと考えています。
──出演者も力のある方たちばかりですよね。サスペンスに関してもそうですし、ヒューマン的な部分の温かさも出せる。両方で力を発揮できる方ばかりですが、そのあたりを狙ってキャスティングされているのでしょうか。
松本:はい、キャスティングも自分的に頑張った!と言ってあげたい(笑)。 とくに、柳楽さんが主演ということで、「やってみたい」と思ってくださった方々が多くて。柳楽さんのパワーがすごくあったと思います。
──柳楽さんが、いい意味で今まで見たことがないような優しい姿を見せていますが、 これから後半にかけて洸人のお芝居のトーンが変わっていくのでしょうか。
松本:そうですね。弟のミッくんと2人だけの暮らしで、無意識のうちに閉塞感を持っていたところから、ライオンがやって来たことで、3話で少し気づきがあったり、大きな嵐の中に巻き込まれて変わっていくのかもしれない。自分の考えや意見を言えるようになってきたり、そこからさらにどう進んでいくのかを描いています。
──坂東さんの自閉スペクトラム症の演技に関しても、相当勉強されて挑んでいると聞いています。どのように取り組まれているのでしょうか。
松本:坂東さんとドラマでご一緒させていただくのは、今作で3回目になります。もともと坂東さんの映画『閉鎖病棟』(19年)の時のお芝居がすごく好きで。ものすごく研究されてお芝居をしたというインタビューを読みました。本当に素敵なお芝居だったので、今回の美路人の役は坂東さんだ!と思いました。
──そうだったんですね。
松本:自閉スペクトラム症に関しては、TBSでは、かつて二宮和也さんが『マラソン』(07年)で自閉症の役を演じていて、その時にお世話になった先生との繋がりなどで、今回、監修をお願いしているさくらんぼ教室の伊庭葉子塾長にたどりつきました。
さくらんぼ教室は障害を持つ幼児から社会人までが通える療育の塾のようなところで、監督、助監督陣などスタッフはもちろん、坂東さんも何度も一緒に通って、全員でコミュニケーションを取りました。また坂東さんは、自分で勉強したものや、海外のドキュメンタリーなどを見て私たちにも共有してくれるので、柳楽さんを含め、常にチームで「作品のここに、これが反映できるよね」という共通言語を持てるような状況を作れました。
──坂東さんの圧倒的なお芝居もさることながら、やはり主役の柳楽さんがなくてはならない存在だと思います。改めて柳楽さんのキャスティングの理由やその魅力を教えてください。
松本:洸人という役は、障害を持つ弟がいることで自分の人生について諦めや閉塞感を抱え、少し暗く、 内に籠る部分があるキャラクターです。その役をどんな方に演じてもらいたいかと考えたときに、もしかしたらより暗い方向に行ってしまうのではないかと。その時、たまたま柳楽さんのスケジュールが空いてるという情報を聞いて、 柳楽さんにこの主演をやっていただいたら面白そうじゃないかと思ったんです。今までの個性的でハードな役のイメージや、ご本人もよく「返り血を浴びる役」と仰っていますが、そうじゃない役もいいんじゃないかなと。
たまたま、その頃にのんさん主演映画『さかなのこ』(22年)で、柳楽さんがヤンキーの役を演じていて、柳楽さんぽいイメージなんですが、のんさん演じる主人公をサポートする心の優しい青年役だったんです。それを見て、きっと洸人の優しさが溢れる、ミッくんのために生きる役が合うんじゃないかと確信が持てたので、お声がけしました。
今回の役で実際演じられているのを見ても、本当に優しさがにじみ出ていますし、セリフだけではない、間や目配せなど台本にはないそれ以上のものも作り上げているので、そこが圧倒的だなと、いつもモニター越しに感嘆しています。
──最後に、ドラマをご覧になる方にメッセージをお願いします。
松本:これから、だんだんとサスペンスの要素が出てきて、 さらに面白い展開になっていきますが、やっぱりこのドラマで大事にしてるのは根底にある3人のヒューマンな要素です。サスペンスの嵐があるからこそ、洸人とミッくんの兄弟の関係性の変化や、2人がどう成長していくのかが見どころです。 このドラマは、単なるサスペンスドラマじゃないというのが魅力だと思います。根底のヒューマンの温かさに癒されつつ、サスペンスがどう展開していくのか、ご注目ください。
金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』
毎週金曜よる10:00~10:54
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