2024年に入り、第4次韓流ドラマブームの火付け役となった『愛の不時着』を手がけた脚本家パク・ジウンの新作『涙の女王』が大ヒット。主演俳優キム・スヒョン、キム・ジウォンの来日ファンミーティングも決定し、まだ熱収まらぬ状況だが、同放送局tvNの別作品が口コミでじわじわと評判となり、人気上昇中なのはご存じだろうか。
その作品は、人気作家キム・パンのウェブ小説を原作に、ドラマ『女神降臨』などのイ・シウンが脚本を手がけた『ソンジェ背負って走れ』。急逝した“推し”を生かすために主人公がタイムリープするファンタジーロマンスだ。これが、忖度なしで本当に面白い! ということで、本作の魅力をとうとうと述べていきたいと思う。
物語は、下半身不随となって人生に絶望する主人公ソルが、ラジオ番組出演中のバンドECLIPSEのメンバーであるソンジェの言葉に救われ、号泣するところから始まる。次の場面は13年後。熱狂的なオタクとなったソルは推し活を全力で楽しんでおり、ECLIPSEのコンサートに行く。
だが、急遽インターン面接が決まって出向くもエレベーターがないため不採用となり、渋滞に巻き込まれて開演時間に間に合わず、乗車したバスにチケットを落としてしまい会場の中にすら入れず。さらには帰り道、ひとけのない橋の上で車椅子が故障して途方に暮れてしまう。しんしんと降る雪も寒く、さすがに心折れた……というところで、まさかの “ソンジェ”とご対面!
推しとの温かな交流を行って天にも昇る心地で帰路につくが、夜中目覚めた時に目に飛び込んできたのは、ソンジェ自殺未遂の噂。いてもたってもいられなくなったソルは、ソンジェが搬送された病院に急いで向かうが、道中、オークションで競り落としたソンジェのデジタル腕時計を川に落としてしまう。這いつくばりながら時計を拾うも、ソンジェの死が報じられ、打ちひしがれるソル。
しかし、なぜか時計が発動し、2008年6月へタイムスリップ。ソルは当時気づかなかったが、ソンジェは真向かいの校舎に通学する同級生。ソルは水泳競技場で練習試合を終えたソンジェのもとに駆けつけ、胸に飛び込んでいく。夢なのか死後の世界なのかと頓珍漢なことを言いながら付きまとうソルにソンジェは引いてしまうが、急な雨降りでは、ソルを傘に入れてあげるのだった。
悲しさ、苦しさ、楽しさ、喜び、おかしみ、愛しさ、切なさなど、第1話だけで様々な感情を誘う内容だが、この後もジェットコースターのようにツイストやアップダウンなどを繰り返しながら物語が突き進んでいく。
ともすればとっ散らかってしまい、観ていて疲弊してしまいそうだが、そこがこの作品の凄いところ。ドラマティックな事件や事故などが発生すると、こちらが負の感情で神経がすり減ってしまう前にコメディ演出やサブストーリー展開を入れ、上手く気持ちの切り替えを促してくれるのだ。
そこに、ソルとソンジェの“すれ違いコント”のような愉快なやり取り、密着ハプニングや交際間近デートなどの胸キュン場面もたっぷり散りばめ、ラブコメの醍醐味も味わえるように。脚本と演出の秀逸さに役者陣の演技力の高さが加わり、かなり上手くまとめ上げているのだ。
主演2人が魅力的かつ相性抜群であるのも、本作の強いところ。
ソルを演じたのは、ドラマ『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』や『偶然見つけたハル』などのキム・ヘユンで、自暴自棄となっていた20歳、オタ活に勤しむ落ち着いた34歳、ピュア感溢れる19歳を見事に演じ分けている。
特に、会場外でもコンサートを楽しむタフさ、セトリにない曲が演奏された時の焦りっぷり、ライブ写真に鼻息荒くなる時の思考回路など、オタクの特性を上手く表現。それゆえ、1話目を再生して20分ほど経ったところで、すっかりソルに親近感が湧き、感情移入することができる。また、19歳のシーンでは、エクボの光る屈託のない笑顔がキラキラとまぶしく、ソンジェが恋に落ちるのも納得。あざとさを一切感じないドジっ子ぶりがまた愛らしく、不器用ながらも全力でソンジェを守ろうと奔走する姿には応援したくなる。
一方ソンジェを演じたのは、映画『20世紀のキミ』やドラマ『力の強い女カンナムスン』 などのビョン・ウソク。優しげな目元・美しい鼻筋・ぽてりとした唇がバランス良く配置された顔面、筋肉質で高身長な肉体……という最強のビジュアルで、情感たっぷりの歌声も低い喋り声もたまらない。
ライブ映像は本物のアイドルさながらで、ソルを熱狂的なオタクにさせたことへの説得力がすごい。そんな“世紀のアイドル”が、照れ隠しのために平静を装うも、ソルの言動に一喜一憂し、ものすごく嬉しそうな表情を見せ、はしゃいで変なことをしてしまう姿は、とにかく尊い。目を輝かせてソンジェを追いかけるソル、そしてソルのまっすぐさに身悶えするソンジェ。ヘユンとウソク、それぞれの素晴らしいパフォーマンスが掛け合わさり、清く美しいラブストーリーが、回を増すごとに輝きを放っていく。
付け加えておきたいのが、ソル、ソンジェと三角関係を繰り広げるキム・テソンについて。恋愛ものに欠かせない2番手は、時にはときめきもへったくれももたらさぬただの邪魔者になってしまったり、なぜか極悪人と化して他人に危害を加えてしまったりと、なかなか難しいポジションである。
しかし、テソンはソルを奪い合ってソンジェと火花を散らすといったライバルの役割を全うしつつも、ソルの気持ちを察してソンジェの背中を押すなど、引き際をちゃんと心得ている、素晴らしいキャラクターなのだ。
スタジャン、ピアス、パーマが似合うモテモテで浮気者なバンドマンが、気づいたらソルに惚れ込み「はて?」と首を傾げる。そんな軽〜い存在感も、良い味を出している。テソン役は、ドラマ『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』や『ミッシング〜彼らがいた〜』などのソン・ゴニ。
ゴニ曰く、キム・テソンのキャラクターは、映画『オオカミの誘惑』でカン・ドンウォンが演じた孤独な不良青年チョン・テソンを参考にシウン作家が作り上げていったそう。“サブ病”シンドロームも、待ったなしだ。
いくら胸キュンの連発で素敵な恋愛を擬似体験できても、いくらお腹を抱えるほどの面白いシーンがあっても、いくら衝撃的な出来事に心を揺さぶられても……、ぐいぐい引き込まれるほどの物語でないと、“面白い作品”という感想は生まれない。そこで改めて断言しよう。
『ソンジェ背負って走れ』は、面白い。ソルの望みは、タイムリープすることでソンジェを救うことで、彼女は過去のどの瞬間をどのように変えれば良いのかと、あらゆる方法を試していく。
しかし、中身が34歳のソルとソンジェが恋心を育んで事態を複雑にしていく上、ソルの眠っていた記憶が呼び覚まされ、とある事件の回避も重要になっていく。ソルと一緒に何が最適解なのかを考えていく謎解き要素も楽しく、またタイムループ作品としてのどう着地するのかという不安と期待が入り混じり、先が気になって仕方ないのである。どうか夢オチだけは避けてほしいと願っている。
※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。
現在10話まで配信されており、ソルは3度目のタイムリープを行っている。面白いがゆえにサクサクと視聴を進めたのは良いが、頭がこんがらがってしまったため、1話目から再視聴し、元の出来事、ソルがタイムリープした後の出来事などを時系列に整理してまとめてみた。『ソンジェ背負って走れ』オタクの同志諸君。長いのだが、ラストスパートを駆け抜ける前の参考にしてもらえたら幸いだ。
※以下のタイムライン表はこちらから拡大して確認できます
ハイライトのテキストはこちら!
【2007年】
チャガム校 学園祭
・ソル(18歳)、テソンに惚れる。
【2008年?】
ソンジェ引っ越し日
【2008年6月〜7月】
北京大会 練習試合前日
・ソル(19歳)、テソンに告白。
北京大会 代表試合
・ソンジェ、肩負傷で選手の道絶たれる。
【2008年9月1日】
誘拐事件①
・ソル、バスを寝過ごし、タクシー運転手ヨンスに誘拐される。
・ソル、逃げ出すが車に撥ねられる。
・ソンジェ、ソルを川から救う。
・ヨンス、現場で逮捕される。
【2008年9月1日以降】
・ソル、下半身不随に。
・ソンジェ、ソルへの恋心を諦める。
・テソン、喧嘩騒ぎを起こして自主退学する。
【2009年7月22日】
61年ぶりの皆既日食
・ECLIPSEソンジェ、ラジオ番組でソルに電話をかける。
・ソル、ECLIPSEソンジェの言葉に救われファンになる。
【2013年夏】
・ECLIPSEソンジェ、ラジオ番組で初恋(ソル)について語る。
【2022年12月31日】
ECLIPSEコンサート前
・ソル、「ボンシネマ」面接に落ちる。
・ECLIPSEソンジェ、引退話で社長やメンバーとぎくしゃく。
ECLIPSEコンサート後
・ソル、ECLIPSEソンジェに漢江の橋で会う。
・ECLIPSEソンジェ、ホテルのバルコニーから身投げ。
【2023年1月1日0:00】
・ECLIPSEソンジェ、ご臨終
【2007年】
チャガム校 学園祭
・ソル(18歳)、テソンに惚れる。
【2008年?】
ソンジェ引っ越し日
【2008年6月〜7月】
北京大会 練習試合前日
・ソル(19歳)、テソンに告白。
北京大会 練習試合
・ソル(34歳)、試合に乱入してソンジェに抱きつく。
北京大会 代表試合
・ソンジェ、優勝。ソル(34歳)とデートしてプリクラを撮る。
北京大会に向けた練習
・ソンジェ、肩負傷で選手の道絶たれる。
・ソンジェ、酩酊中のソル(34歳)に告白。
・テソン、女子撃退のためソル(19歳)に交際を申込み。
・ソル(19歳)、テソンと交際開始。ソンジェを拒絶。
【2008年9月1日以降】〜【2022年12月31日】<元の人生>と同じ
【2023年1月1日0:00】
・ECLIPSEソンジェ、ご臨終。遺品にソルとのプリクラが出現。
【2007年】〜【2008年6月〜7月】<タイムリープ1回目を経ての人生>と同じ
【2008年8月10日頃〜】
・ソル(34歳)、ソンジェ芸能界入りを妨害。
・ソル(34歳)、バスを寝過ごし、ヨンスに目をつけられる。
・ヨンス、ソルの携帯電話を拾い、ソルの自宅住所も入手。
・ソル(34歳)、ソンジェと一緒にタイムカプセルを埋め、【2023年1月1日の夜12時、漢江の橋で会って一緒に開ける】約束をする。
・ソル(34歳)、テソンの不純な動機を知って振る。
【2008年8月23日】
北京大会 野球決勝戦
・ソンジェ、ソル(34歳)と試合観戦後、告白する。
【2008年8月23日以降】
・ソル(34歳)、ソンジェを振る。
【2008年9月1日】
誘拐事件①
・ソル(34歳)、2013年夏にECLIPSEソンジェが話していた初恋相手が自分と気付き、公園で待つソンジェのもとへ急ぐがヨンスに誘拐される。
・ソル(34歳)、脱出時にタクシーの鍵を奪っていく。
・ソル(34歳)、キム刑事の登場で撥ねられる運命から免れる。
・ソル(19歳)、救出直後に気を失う。
【2008年9月1日以降】
・ソル(19歳)、事故のトラウマによりソンジェを拒絶。
・テソン、高校を無事卒業。ファッションECサイト社長業で成功。
【2009年5月10日】
・ヨンス、ソル(20歳)を誘拐。ソンジェが救出、ヨンス捕まる。
【2022年6月1日】
・ECLIPSEソンジェ、タイムカプセルを掘り起こして持ち帰る。
【2023年1月1日0:00】
・ECLIPSEソンジェ、漢江の橋でソルを待つが来ないため帰宅。
【2023年1月1日0:15〜】
・ソル(34歳)、「ボンシネマ」社員としての深夜業務終了。
【2023年1月1日0:30〜】
・ソル(34歳)、漢江の橋に行くがECLIPSEソンジェに会えず。
・ソル(34歳)、タイムカプセルを植えた木はなくなり、ECLIPSEソンジェは豪邸に住んでいることを確認。直後、ストーカーと勘違いされて逮捕される。
【2023年1月2日以降】
・ソル(34歳)、ECLIPSEソンジェを誤って水に突き落とす。
【2023年1月13日頃】
・ヨンス、釈放される。
【2023年1月15日頃】
ECLIPSEコンサート日
・ソル(34歳)、ECLIPSEソンジェにスタッフ伝手に花束贈る。
・ECLIPSEソンジェ、ソルの名刺に気づき漢江でソル(34歳)と再会。
・ソル(34歳)、ソンジェを1人にしてはならないと画策。夜明けに告白し、両思いになる。
【2023年1月16日頃】
・ソル(34歳)、10代のECLIPSEストーカーを捕まえる。
・ECLIPSEソンジェ、ヨンスに襲われ危篤状態に。
【2007年】〜【2008年9月1日以降】<タイムリープ2回目を経ての人生>と同じ
【2009年3月17日】
新入生歓迎合宿 前日
・ソル(34歳)、誘拐事件を通報、証拠品(ヨンスの鍵)を提出。
・インヒョク、ソンジェ作曲の「夕立」を発見。
【2009年3月18日以降】
・ヨンスが証拠隠滅を図るが失敗する。
・ソル(34歳)、テソンに未来の伝言(2023年キム刑事にソルではなくソンジェを守れと言うこと)を託す。
・ソンジェ不在のECLIPSE、「夕立」でオーディション合格。
・ソンジェ、状況を理解してソル(34歳)に告白。
【2023年1月15日頃】
・「リュ・ソンジェ襲撃される」のニュースが、3人組バンド「ECLIPSE新アルバム『Destiny』発売」へと変わる。
「ザ・現代ソウル」ではポップアップストアがオープンし、最終回の観覧イベントは応募殺到でサーバーダウン&チケットが高額転売されるなど、社会的なブームを巻き起こした本作。ラスト4話にしてタイムリープ4回目に突入し、ソルはソンジェとの出会いを回避、“このままソルは過去の記憶をひとり抱えながら生きていくのか?”という切なさ極まるストーリー展開で、祈るような想いで視聴を進めた方も多いであろう。
そして迎えた最終回。ヨンスの脅威が消え去り、ソルは記憶をすべて思い出したソンジェと結ばれる、最も期待されていたハッピーエンディングで幕を閉じた。ソルの認知症の祖母による「記憶は消えるものじゃない。全て心に刻まれている。だから頭では忘れても心の中ですべて大切に覚えている」という言葉に、作品が伝えたいメッセージが込められていたと思う。
ソルとソンジェの時空を超えたロマンスは、時には涙、時には笑いをもたらす、どの瞬間も尊いものだった。
また、毎度必ず結ばれるソルの兄とソルの親友による夫婦漫才、ソルの母とソンジェの父によるマウント(?)合戦、ソンジェと二番手テソンの滑稽なブロマンスなど、本筋を彩るエピソードの数々も魅力に満ち溢れていた。『ソンジェ背負って走れ』は間違いなく、韓国ドラマの名作として、今後も語り継がれることであろう。
さて、先日10話までの時間軸をまとめたタイムライン表だが、最終回を迎えたので完成させてみた。本作の “記憶”を辿る助けになることを願っている。
※以下のタイムライン表はこちらから拡大して確認できます
11話以降のハイライトはこちら!
【2009年5月8日】
・ソンジェ、インヒョクの故郷でヨンスに殺される。
【2007年】
チャガム校 学園祭
・ソル(18歳)、テソンに惚れる。
【2008年?】
・ソンジェ引っ越し日:ソル(34歳)、ソンジェとの初対面を回避。
・ヨンス、チュヤン貯水池の殺人未遂罪で投獄、以降6年間服役。
【2023年12月17日以降】
・映画制作会社勤務のソル、俳優となったソンジェと縁ができてしまう。
・ソンジェ、ソルとの記憶をすべて思い出す。
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2024年に入り、第4次韓流ドラマブームの火付け役となった『愛の不時着』を手がけた脚本家パク・ジウンの新作『涙の女王』が大ヒット。主演俳優キム・スヒョン、キム・ジウォンの来日ファンミーティングも決定し、まだ熱収まらぬ状況だが、同放送局tvNの別作品が口コミでじわじわと評判となり、人気上昇中なのはご存じだろうか。
その作品は、人気作家キム・パンのウェブ小説を原作に、ドラマ『女神降臨』などのイ・シウンが脚本を手がけた『ソンジェ背負って走れ』。急逝した“推し”を生かすために主人公がタイムリープするファンタジーロマンスだ。これが、忖度なしで本当に面白い! ということで、本作の魅力をとうとうと述べていきたいと思う。
物語は、下半身不随となって人生に絶望する主人公ソルが、ラジオ番組出演中のバンドECLIPSEのメンバーであるソンジェの言葉に救われ、号泣するところから始まる。次の場面は13年後。熱狂的なオタクとなったソルは推し活を全力で楽しんでおり、ECLIPSEのコンサートに行く。
だが、急遽インターン面接が決まって出向くもエレベーターがないため不採用となり、渋滞に巻き込まれて開演時間に間に合わず、乗車したバスにチケットを落としてしまい会場の中にすら入れず。さらには帰り道、ひとけのない橋の上で車椅子が故障して途方に暮れてしまう。しんしんと降る雪も寒く、さすがに心折れた……というところで、まさかの “ソンジェ”とご対面!
推しとの温かな交流を行って天にも昇る心地で帰路につくが、夜中目覚めた時に目に飛び込んできたのは、ソンジェ自殺未遂の噂。いてもたってもいられなくなったソルは、ソンジェが搬送された病院に急いで向かうが、道中、オークションで競り落としたソンジェのデジタル腕時計を川に落としてしまう。這いつくばりながら時計を拾うも、ソンジェの死が報じられ、打ちひしがれるソル。
しかし、なぜか時計が発動し、2008年6月へタイムスリップ。ソルは当時気づかなかったが、ソンジェは真向かいの校舎に通学する同級生。ソルは水泳競技場で練習試合を終えたソンジェのもとに駆けつけ、胸に飛び込んでいく。夢なのか死後の世界なのかと頓珍漢なことを言いながら付きまとうソルにソンジェは引いてしまうが、急な雨降りでは、ソルを傘に入れてあげるのだった。
悲しさ、苦しさ、楽しさ、喜び、おかしみ、愛しさ、切なさなど、第1話だけで様々な感情を誘う内容だが、この後もジェットコースターのようにツイストやアップダウンなどを繰り返しながら物語が突き進んでいく。
ともすればとっ散らかってしまい、観ていて疲弊してしまいそうだが、そこがこの作品の凄いところ。ドラマティックな事件や事故などが発生すると、こちらが負の感情で神経がすり減ってしまう前にコメディ演出やサブストーリー展開を入れ、上手く気持ちの切り替えを促してくれるのだ。
そこに、ソルとソンジェの“すれ違いコント”のような愉快なやり取り、密着ハプニングや交際間近デートなどの胸キュン場面もたっぷり散りばめ、ラブコメの醍醐味も味わえるように。脚本と演出の秀逸さに役者陣の演技力の高さが加わり、かなり上手くまとめ上げているのだ。
主演2人が魅力的かつ相性抜群であるのも、本作の強いところ。
ソルを演じたのは、ドラマ『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』や『偶然見つけたハル』などのキム・ヘユンで、自暴自棄となっていた20歳、オタ活に勤しむ落ち着いた34歳、ピュア感溢れる19歳を見事に演じ分けている。
特に、会場外でもコンサートを楽しむタフさ、セトリにない曲が演奏された時の焦りっぷり、ライブ写真に鼻息荒くなる時の思考回路など、オタクの特性を上手く表現。それゆえ、1話目を再生して20分ほど経ったところで、すっかりソルに親近感が湧き、感情移入することができる。また、19歳のシーンでは、エクボの光る屈託のない笑顔がキラキラとまぶしく、ソンジェが恋に落ちるのも納得。あざとさを一切感じないドジっ子ぶりがまた愛らしく、不器用ながらも全力でソンジェを守ろうと奔走する姿には応援したくなる。
一方ソンジェを演じたのは、映画『20世紀のキミ』やドラマ『力の強い女カンナムスン』 などのビョン・ウソク。優しげな目元・美しい鼻筋・ぽてりとした唇がバランス良く配置された顔面、筋肉質で高身長な肉体……という最強のビジュアルで、情感たっぷりの歌声も低い喋り声もたまらない。
ライブ映像は本物のアイドルさながらで、ソルを熱狂的なオタクにさせたことへの説得力がすごい。そんな“世紀のアイドル”が、照れ隠しのために平静を装うも、ソルの言動に一喜一憂し、ものすごく嬉しそうな表情を見せ、はしゃいで変なことをしてしまう姿は、とにかく尊い。目を輝かせてソンジェを追いかけるソル、そしてソルのまっすぐさに身悶えするソンジェ。ヘユンとウソク、それぞれの素晴らしいパフォーマンスが掛け合わさり、清く美しいラブストーリーが、回を増すごとに輝きを放っていく。
付け加えておきたいのが、ソル、ソンジェと三角関係を繰り広げるキム・テソンについて。恋愛ものに欠かせない2番手は、時にはときめきもへったくれももたらさぬただの邪魔者になってしまったり、なぜか極悪人と化して他人に危害を加えてしまったりと、なかなか難しいポジションである。
しかし、テソンはソルを奪い合ってソンジェと火花を散らすといったライバルの役割を全うしつつも、ソルの気持ちを察してソンジェの背中を押すなど、引き際をちゃんと心得ている、素晴らしいキャラクターなのだ。
スタジャン、ピアス、パーマが似合うモテモテで浮気者なバンドマンが、気づいたらソルに惚れ込み「はて?」と首を傾げる。そんな軽〜い存在感も、良い味を出している。テソン役は、ドラマ『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』や『ミッシング〜彼らがいた〜』などのソン・ゴニ。
ゴニ曰く、キム・テソンのキャラクターは、映画『オオカミの誘惑』でカン・ドンウォンが演じた孤独な不良青年チョン・テソンを参考にシウン作家が作り上げていったそう。“サブ病”シンドロームも、待ったなしだ。
いくら胸キュンの連発で素敵な恋愛を擬似体験できても、いくらお腹を抱えるほどの面白いシーンがあっても、いくら衝撃的な出来事に心を揺さぶられても……、ぐいぐい引き込まれるほどの物語でないと、“面白い作品”という感想は生まれない。そこで改めて断言しよう。
『ソンジェ背負って走れ』は、面白い。ソルの望みは、タイムリープすることでソンジェを救うことで、彼女は過去のどの瞬間をどのように変えれば良いのかと、あらゆる方法を試していく。
しかし、中身が34歳のソルとソンジェが恋心を育んで事態を複雑にしていく上、ソルの眠っていた記憶が呼び覚まされ、とある事件の回避も重要になっていく。ソルと一緒に何が最適解なのかを考えていく謎解き要素も楽しく、またタイムループ作品としてのどう着地するのかという不安と期待が入り混じり、先が気になって仕方ないのである。どうか夢オチだけは避けてほしいと願っている。
※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。
現在10話まで配信されており、ソルは3度目のタイムリープを行っている。面白いがゆえにサクサクと視聴を進めたのは良いが、頭がこんがらがってしまったため、1話目から再視聴し、元の出来事、ソルがタイムリープした後の出来事などを時系列に整理してまとめてみた。『ソンジェ背負って走れ』オタクの同志諸君。長いのだが、ラストスパートを駆け抜ける前の参考にしてもらえたら幸いだ。
※以下のタイムライン表はこちらから拡大して確認できます
ハイライトのテキストはこちら!
【2007年】
チャガム校 学園祭
・ソル(18歳)、テソンに惚れる。
【2008年?】
ソンジェ引っ越し日
【2008年6月〜7月】
北京大会 練習試合前日
・ソル(19歳)、テソンに告白。
北京大会 代表試合
・ソンジェ、肩負傷で選手の道絶たれる。
【2008年9月1日】
誘拐事件①
・ソル、バスを寝過ごし、タクシー運転手ヨンスに誘拐される。
・ソル、逃げ出すが車に撥ねられる。
・ソンジェ、ソルを川から救う。
・ヨンス、現場で逮捕される。
【2008年9月1日以降】
・ソル、下半身不随に。
・ソンジェ、ソルへの恋心を諦める。
・テソン、喧嘩騒ぎを起こして自主退学する。
【2009年7月22日】
61年ぶりの皆既日食
・ECLIPSEソンジェ、ラジオ番組でソルに電話をかける。
・ソル、ECLIPSEソンジェの言葉に救われファンになる。
【2013年夏】
・ECLIPSEソンジェ、ラジオ番組で初恋(ソル)について語る。
【2022年12月31日】
ECLIPSEコンサート前
・ソル、「ボンシネマ」面接に落ちる。
・ECLIPSEソンジェ、引退話で社長やメンバーとぎくしゃく。
ECLIPSEコンサート後
・ソル、ECLIPSEソンジェに漢江の橋で会う。
・ECLIPSEソンジェ、ホテルのバルコニーから身投げ。
【2023年1月1日0:00】
・ECLIPSEソンジェ、ご臨終
【2007年】
チャガム校 学園祭
・ソル(18歳)、テソンに惚れる。
【2008年?】
ソンジェ引っ越し日
【2008年6月〜7月】
北京大会 練習試合前日
・ソル(19歳)、テソンに告白。
北京大会 練習試合
・ソル(34歳)、試合に乱入してソンジェに抱きつく。
北京大会 代表試合
・ソンジェ、優勝。ソル(34歳)とデートしてプリクラを撮る。
北京大会に向けた練習
・ソンジェ、肩負傷で選手の道絶たれる。
・ソンジェ、酩酊中のソル(34歳)に告白。
・テソン、女子撃退のためソル(19歳)に交際を申込み。
・ソル(19歳)、テソンと交際開始。ソンジェを拒絶。
【2008年9月1日以降】〜【2022年12月31日】<元の人生>と同じ
【2023年1月1日0:00】
・ECLIPSEソンジェ、ご臨終。遺品にソルとのプリクラが出現。
【2007年】〜【2008年6月〜7月】<タイムリープ1回目を経ての人生>と同じ
【2008年8月10日頃〜】
・ソル(34歳)、ソンジェ芸能界入りを妨害。
・ソル(34歳)、バスを寝過ごし、ヨンスに目をつけられる。
・ヨンス、ソルの携帯電話を拾い、ソルの自宅住所も入手。
・ソル(34歳)、ソンジェと一緒にタイムカプセルを埋め、【2023年1月1日の夜12時、漢江の橋で会って一緒に開ける】約束をする。
・ソル(34歳)、テソンの不純な動機を知って振る。
【2008年8月23日】
北京大会 野球決勝戦
・ソンジェ、ソル(34歳)と試合観戦後、告白する。
【2008年8月23日以降】
・ソル(34歳)、ソンジェを振る。
【2008年9月1日】
誘拐事件①
・ソル(34歳)、2013年夏にECLIPSEソンジェが話していた初恋相手が自分と気付き、公園で待つソンジェのもとへ急ぐがヨンスに誘拐される。
・ソル(34歳)、脱出時にタクシーの鍵を奪っていく。
・ソル(34歳)、キム刑事の登場で撥ねられる運命から免れる。
・ソル(19歳)、救出直後に気を失う。
【2008年9月1日以降】
・ソル(19歳)、事故のトラウマによりソンジェを拒絶。
・テソン、高校を無事卒業。ファッションECサイト社長業で成功。
【2009年5月10日】
・ヨンス、ソル(20歳)を誘拐。ソンジェが救出、ヨンス捕まる。
【2022年6月1日】
・ECLIPSEソンジェ、タイムカプセルを掘り起こして持ち帰る。
【2023年1月1日0:00】
・ECLIPSEソンジェ、漢江の橋でソルを待つが来ないため帰宅。
【2023年1月1日0:15〜】
・ソル(34歳)、「ボンシネマ」社員としての深夜業務終了。
【2023年1月1日0:30〜】
・ソル(34歳)、漢江の橋に行くがECLIPSEソンジェに会えず。
・ソル(34歳)、タイムカプセルを植えた木はなくなり、ECLIPSEソンジェは豪邸に住んでいることを確認。直後、ストーカーと勘違いされて逮捕される。
【2023年1月2日以降】
・ソル(34歳)、ECLIPSEソンジェを誤って水に突き落とす。
【2023年1月13日頃】
・ヨンス、釈放される。
【2023年1月15日頃】
ECLIPSEコンサート日
・ソル(34歳)、ECLIPSEソンジェにスタッフ伝手に花束贈る。
・ECLIPSEソンジェ、ソルの名刺に気づき漢江でソル(34歳)と再会。
・ソル(34歳)、ソンジェを1人にしてはならないと画策。夜明けに告白し、両思いになる。
【2023年1月16日頃】
・ソル(34歳)、10代のECLIPSEストーカーを捕まえる。
・ECLIPSEソンジェ、ヨンスに襲われ危篤状態に。
【2007年】〜【2008年9月1日以降】<タイムリープ2回目を経ての人生>と同じ
【2009年3月17日】
新入生歓迎合宿 前日
・ソル(34歳)、誘拐事件を通報、証拠品(ヨンスの鍵)を提出。
・インヒョク、ソンジェ作曲の「夕立」を発見。
【2009年3月18日以降】
・ヨンスが証拠隠滅を図るが失敗する。
・ソル(34歳)、テソンに未来の伝言(2023年キム刑事にソルではなくソンジェを守れと言うこと)を託す。
・ソンジェ不在のECLIPSE、「夕立」でオーディション合格。
・ソンジェ、状況を理解してソル(34歳)に告白。
【2023年1月15日頃】
・「リュ・ソンジェ襲撃される」のニュースが、3人組バンド「ECLIPSE新アルバム『Destiny』発売」へと変わる。
「ザ・現代ソウル」ではポップアップストアがオープンし、最終回の観覧イベントは応募殺到でサーバーダウン&チケットが高額転売されるなど、社会的なブームを巻き起こした本作。ラスト4話にしてタイムリープ4回目に突入し、ソルはソンジェとの出会いを回避、“このままソルは過去の記憶をひとり抱えながら生きていくのか?”という切なさ極まるストーリー展開で、祈るような想いで視聴を進めた方も多いであろう。
そして迎えた最終回。ヨンスの脅威が消え去り、ソルは記憶をすべて思い出したソンジェと結ばれる、最も期待されていたハッピーエンディングで幕を閉じた。ソルの認知症の祖母による「記憶は消えるものじゃない。全て心に刻まれている。だから頭では忘れても心の中ですべて大切に覚えている」という言葉に、作品が伝えたいメッセージが込められていたと思う。
ソルとソンジェの時空を超えたロマンスは、時には涙、時には笑いをもたらす、どの瞬間も尊いものだった。
また、毎度必ず結ばれるソルの兄とソルの親友による夫婦漫才、ソルの母とソンジェの父によるマウント(?)合戦、ソンジェと二番手テソンの滑稽なブロマンスなど、本筋を彩るエピソードの数々も魅力に満ち溢れていた。『ソンジェ背負って走れ』は間違いなく、韓国ドラマの名作として、今後も語り継がれることであろう。
さて、先日10話までの時間軸をまとめたタイムライン表だが、最終回を迎えたので完成させてみた。本作の “記憶”を辿る助けになることを願っている。
※以下のタイムライン表はこちらから拡大して確認できます
11話以降のハイライトはこちら!
【2009年5月8日】
・ソンジェ、インヒョクの故郷でヨンスに殺される。
【2007年】
チャガム校 学園祭
・ソル(18歳)、テソンに惚れる。
【2008年?】
・ソンジェ引っ越し日:ソル(34歳)、ソンジェとの初対面を回避。
・ヨンス、チュヤン貯水池の殺人未遂罪で投獄、以降6年間服役。
【2023年12月17日以降】
・映画制作会社勤務のソル、俳優となったソンジェと縁ができてしまう。
・ソンジェ、ソルとの記憶をすべて思い出す。
視聴はこちらから
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