松坂桃李が文部科学省から派遣された高校教師・御上孝を演じる話題のドラマ『御上先生』も、ついに終盤戦。一見、冷徹に見える御上が熱い心を隠し持ち、教育問題に切り込むさまが衝撃を生んでいる。御上を筆頭に、吉岡里帆が演じる副担任の是枝文香、そして29人の生徒たちからなる“チーム御上”が、次第にまとまっていく姿も感動的だ。
現代社会の闇に切り込む鮮烈なストーリー、さまざまな悩みを抱える生徒たち、そして御上自身の人間ドラマ、さらに世界観の構築にこだわった映像美や新旧の名優揃いの絶妙なキャスティングなどヒットの要因はさまざま。ここでは、制作陣がその裏話を明かしたTBS公式YouTubeチャンネルでの生配信トークイベント「課外授業2限目 〜裏側から学ぶ~」から、ドラマの面白さの秘密をピックアップ!
この日、生徒役の豊田裕大&山下幸輝と共に登壇した、飯田和孝プロデューサーと宮崎陽平監督が解説するドラマの見どころを知って、目前に迫る最終回に臨もう!
従来の作品とは一線を画した、新しい学園ドラマとして話題の『御上先生』。そもそも、このドラマの企画はどんな背景で誕生したのか?大元をたどると、飯田プロデューサーの高校時代にその礎があった!
飯田「僕が高校3年生の時に、『3年B組金八先生』第5シリーズに衝撃を受けたんです。風間俊介さんが生徒役で出ていたシリーズです。子どもたちが社会に出るための手助けをするのが先生なんだというところに魅力を感じて、教師になりたいって思いました。ただ、受験シーズンに『金八先生』にハマりすぎて、現役では志望校に落ちてしまって…(笑)。一浪して教育学部に入って、中高の英語の教員免許を取りました」
それなのに、なぜ今、ドラマのプロデューサーに?
飯田「教師を目指して大学生活を送っていたんですが、2年生くらいの時に『待てよ?』と。いずれ社会に出る子どもたちを導く教師になるんだから、自分も社会を知らないと行けないんじゃないかと思いまして。このまま教師になれるんだろうか?という迷いからの逃げでもあったのかもしれませんが。それで社会を見て勉強しようと就職したんです」
そんないきさつから、TBSに入社後もずっと「学園ドラマをやりたい」という気持ちは、飯田プロデューサーの中にあり続けたという。
飯田「2021年には『ドラゴン桜』にかかわりましたが、その前から、いつかオリジナルの学園ものを世の中に届けたいと思っていたんです。このドラマの企画が生まれたのは、ちょうどコロナ禍の2020年。自粛でやることもなく家で企画を考えている中、ONE OK ROCKの『18祭 2016』をYouTubeで見て、そこに映っている18歳の人たちの輝きに目を奪われたんです。コロナ禍って、学校生活がまともに送れなくて若者に元気がないって言われていたじゃないですか。そんな時代だからこそ、若いエネルギーをドラマにできないかと思って学園ドラマを企画しました。5年経過した今、やっと実現したので、高校3年生からの長い歴史があるんです(笑)」
本作の脚本を手掛けるのは、30年以上、演劇の世界で活躍し、満を持して映画の脚本を手掛けた『新聞記者』が高い評価を得た詩森ろば。地上波の連ドラは、今作が初めてとなる。
飯田「当初は、官僚の先生が官僚ならではの方法で生徒たちを導いていく、従来の学園ドラマ…と言うのが正しいかどうかはわかりませんが、学校の先生がたまたま官僚出身で問題を解決していくという設定で作りはじめたんです。そこに社会の問題を絡ませようということで、詩森さんと話しながら作っていきました。何かのきっかけがあったというよりは、時代の変化とともにそういう方向になっていった。企画立案から5年経ち、世の中も変わりつつある中で、この時代にフィットした教師像とは、世の中が必要としている言葉を冷静に言うキャラクター…心は熱く、頭はクールに、という生徒との接し方のほうが人を動かす力があるんじゃないかと思ってこういう形にしていったんです」
難しいテーマにも臆さず臨む『御上先生』を作る上では、従来からドラマの制作現場に漫然とある「わかりやすいドラマにしないといけない」という呪縛から、離れる必要もあったという。
宮崎「詩森さんと飯田さんが温めた企画書を、僕は昨年の『アンチヒーロー』という作品が終わったあとに見せてもらって。そこに込められたものすごい熱量と面白い内容を、どう切り取って世の中に伝えていったらいいのか。地上波でやると考えたら、めっちゃ難しい。だから、そこはすごく悩みました。今までのドラマは、それが正しいかどうかはわからないですが、僕が教わってきたのは、高齢者の方々…例えば自分のお母さんやおばあちゃんが見てもわかりやすいようにということで。でも、この内容を届けるべきは、まずは若者なんじゃないかと思ったんです。僕が学生時代、こんなドラマがあったら見ていたなと思うような作品にしたいなと。そう考えた時、今の若い皆さんは配信ドラマや海外ドラマでお金のかかったリッチな映像を見慣れていますから、このドラマもそういうテイストにしたい。さらに言えば、ONE OK ROCKの主題歌は決定していたので、その楽曲に負けない映像にしなきゃという思いはありました」
地上波ドラマを多く手掛けたエンタメに長けた彼ら制作陣が、社会派の脚本家と組んだことで、難しいテーマを娯楽性に富んだ形で見せることに成功している。
飯田「あまり説教くさくしたくはないですよねという話を詩森さんともしていて…。演劇の世界で社会問題を扱ってきた詩森さんがテレビドラマをやるからには、僕や宮崎監督という、これまで『VIVANT』のようなエンターテインメント作品に関わってきた人たちの経験を、社会問題が得意な詩森さんのような方と融合させることで、いかにエンターテインメントとして成立させるか。そして、その上で、ちょっと偉そうな言い方になっちゃいますが、考えなくてはいけない問題を世の中の人に一緒に考えてもらえたらいいなと。例えば、政治ドラマのような大人の社会派ドラマでは伝わらないものも、若者がそれを扱うことによって、より身近に感じてもらえるんじゃないかと思うので。そういう意味では、すごくいい化学反応になっているんじゃないかという気がします」
本作を手掛ける宮崎監督は、今回初のチーフ監督を手掛けるホープ。その若い感覚が生かされたのは、これまでの地上波連続ドラマではそこまで重視されてこなかったビジュアルへのこだわりだ。先のコメントでも監督が話したとおり、配信ドラマや海外ドラマに負けない“リッチな映像”は、どうやって生まれたのか?
飯田「僕は宮崎監督より、10歳年上なんです。だから、僕はまだ映像のクオリティを上げることと、人々が見てくれるということがイマイチ、結びついてなかったんです。やっぱり、俳優さんたちのお芝居をちゃんと撮って、ちゃんと伝えることが一番の正義だと思っていたので。でも、『さらに映像のクオリティを上げたい』ということを若者が言ってですね(笑)」
宮崎「言わせていただきました(笑)」
カメラなどの機材にこだわったのはもちろん、生徒の持つ小物一つひとつにもそのキャラクターの性格が出るようにこだわったという。
宮崎「従来は、しゃべっている人にカメラが寄ってアップになるのが定石なんですが、生徒が29人いると、全員がしゃべって全員にカメラが寄るというわけにはいかない。だから、広い画が必要になると思ったんです。ということは、細かいところも全部映るということ。その時に、生徒たちの小物や仕草のようなディテールで、進学校・隣徳学院の特徴が出るんじゃないかと若輩者ながら思いまして。美術さんの手作りなんですが、元バスケ部の波多野、香川、元マネージャーの名倉さんは同じマスコットを付けてたり…」
制服もデザインだけではなく、映像の色味に合うかどうかにもこだわって選んだそう。
宮崎「いろんな学校へロケに行って、どれがハマるかを決めましたよね。進学校の雰囲気はどれだと伝わるかな?って」
飯田「実際のドラマのロケ現場でも助監督に着てもらって、その場所のコンクリートの色味だったり、そういうものとのフィット感も考えて、オリジナルの制服を作ったんです」
色のバランスへのこだわりは、宮崎監督が過去に手掛けたドラマ『VIVANT』での経験から生まれたものだったとか。
宮崎「モンゴルのスタッフから、リッチな映像にするには色のバランスが合っていないとよくないという話を聞いて。だから、このドラマでは初めて“ルック打ち”というものをやらせてもらいました。普通、カメラテストで色味を作る時って撮影部と照明部だけを呼ぶんですけど、このドラマではさらに美術部、衣装部、メイクも含めて、みんなでテスト撮影をして、どういう色味にするかを総合的に決めました。撮影前からスタッフみんなで考えて作っている現場ですね。それはキャストのみんなも同じ。ずっとみんなで『どういう風にセリフを言うか』を考えてくれて。そうやって、みんなで考えることをずっとやり続けている現場だと思います」
生徒役は29人。それぞれに個性的な彼ら生徒役の演技も、このドラマの大きな魅力に。生徒役は、オーディションで選出された。
飯田「昨今ドラマを作るにあたって、一過性のものであってはいけないと思っていて。人気俳優をキャスティングして、世のブームに合わせれば見てくれるだろうというものではなくて、しっかりと伝えたいものをストーリーとして伝えたい。なのでオーディションでは、それをしっかり表現できる生徒役を選びたいと思いました。ですので、まずは純粋に皆さんに『この我々の志に賛同してくださる方はプロフィールを出してください』と募って。ですので、中には普段はオーディションには参加しない子も来てくれましたね」
オーディションの基準としては、まずは演技力を重視したそう。
飯田「台本はもうほぼできていたので、基準を満たした皆さんをキャラクターに合わせて振り分けていった形です。そして、みんなの配役が正式に決まったあと、その俳優さんのパーソナリティ、個性をその役柄のキャラクターにさらに注入していったというやり方でした」
演技面の演出はどのように?
宮崎「すごく細かく演技指導をしているわけではないんです。さっきの小物も含みますが、そういうキャラクターの裏設定とクラスでの関係値を書いたものを先に渡して、役の解釈を各々やってみてというところから始めました。だから、それを生徒役の子たちが自分なりにやってくれていて」
まさに三上先生がよく言う「考えて」の姿勢。先程の宮崎監督の言葉どおり、この日登壇した豊田も山下も口々に「自分自身で考えて役を演じていた」「ほかの生徒の演技を見て、自分の演技を考えた」と語っていた。
宮崎「そもそも台本から制作陣も『考えて』と言われているようなものなので。だから、みんなで考えてますね。それはやっていて面白かったし、生徒さん同士も考えてくれていたんですね」
飯田「だから、引きの画がすごく面白いんですよ」
宮崎「全員の生徒が画角に入ってるところが見ていて楽しくて。誰かがセリフを言うと振り返って見ている子もいれば、振り返らずにじっと考えていたり。それぞれがその役をちゃんと演じてくれるからこその面白さなんです」
教室全体を見回した時、その関係性が映る席順にもこだわったという。
飯田「クランクインが去年の11月の頭くらいで、教室のシーンは12月から撮影に入ったんですが、その前の10月中旬くらいに衣装合わせがあったんです。その時に、生徒全員にリハ室に集まってもらって、そこでそれぞれ衣装を着てもらって、着崩し方を考えたりしたんですが、その時に席順に座ってもらったんですよね」
宮崎「そうです。大体、学園ものって制服の下にパーカーを着せたり、少し着こなしを変えてキャラクターを作るんですけど、今回は進学校が舞台なので、あまり大きくは変えたくなかったんです。だから、全員に席順どおりに座ってもらって『あなたは髪を結ぼうか』とか、そういう微調整をして。その中で、席を入れ替えることもしたんですよね」
ちなみに、山下によると「もともと冬木は富永の隣だった」という裏話も。
宮崎「キャラと台本に合わせて座席を決めて、『きっとここは仲がいいからしゃべるけど、こっちは仲はよくてもあまりしゃべらへんよね』とか。一人ずつ、僕と飯田さんで生徒たちの話を聞いて回ったので、すごく時間がかかりましたけど、面白い時間でした」
今作の主題歌は、ONE OK ROCKの「Puppets Can't Control You」。鮮烈なストーリーにピタリとハマる、アグレッシブな楽曲だ。この主題歌の解禁は、初回放送時。なんと、生徒役やほとんどのスタッフにも知らされていなかったトップシークレットだったとか。
飯田「主題歌が決まったのは初回放送の数ヶ月前ですかね。でも、ワンオクが主題歌ということは、もう絶対に決めていて。初解禁が初回オンエアのラスト、22時14分頃なんですけど。その時点で知っていたのは、大人のキャストの方でもごく一部で。でも、これは絶対やりたかった」
しかし、そのオンエア前にプロデューサーから生徒たちに大ヒントが与えられていた。
飯田「教室のシーンを撮り始めた12月の頭に、歌詞のフレーズが入った番組グッズのサコッシュを配ったんですよ。生徒たちは『これなんだろう?』って思っていたはず。そしたら、神崎(奥平大兼)だけ『これ、歌詞なんですか?』って聞いてきたんです。顔合わせの時から、みんなにONE OK ROCKの『We are』を聴いてこの企画を立てたと話していたから」
まさに役を地で行く勘のよさ!
宮崎「僕もスタッフさんに『このフレーズ、なんですか?』って聞かれるけど言えないから、『さだまさしさんの…』とか言ってごまかしてました(笑)」
及川光博が演じる、文部科学省の総合教育政策局局長で御上の上司の塚田と、北村一輝が扮する隣徳学院の理事長・古代が裏で繋がっていることが判明した第7話。常盤貴子演じる冴島の不倫スキャンダルをめぐる謎や、御上が養護教諭・真由美(臼田あさ美)とともに追っている隣徳学院の暗部も含めて、最終回に向けて気になる要素がてんこ盛り。いったいどんな結末を迎えるのか?
このイベントで、制作陣がちらりと明かした最終回に向けてのヒントを、ここではピックアップ!
まず1つ目の発言は、この日の飯田プロデューサーが着ていた、迫田孝也演じる溝端先生とおそろいのジャンパーについての言及。
飯田「ベージュです。これは、理事長とも違う色(理事長のジャンパーは赤)。こういうところにも、意外と意味を持ってやっております。このジャンパーが最後、どうなるかにも注目してもらえたら」
どういう意味が込められているのか、気にしながらラストに臨みたい!そしてもう一つの発言は、教室のど真ん中に座っている女子生徒・千木良について。次々回の朝ドラヒロイン、髙石あかりが演じているということは、今後、何か大きな役回りを与えられているに違いない?
飯田「第1話で『官僚に勝つには…しかいないよね』って別の生徒のセリフがあって、そのあと千木良はちょっと物憂げな表情をしてるんですよね。だから…千木良はどうなるんだろう?(笑)」
宮崎「実は…撮影はもう終わってます」
残念ながら、彼女に何があるかまではイベントでは明かされなかったが、ドラマの最終回はもうすぐ!この2つのヒントにも注目しながら、“チーム御上”の行く末を見守りたい!
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