ドラマを観ながら何度唸ったことか。椎葉春乃(吉柳咲良)の想いが言語化されて、耳に、心に染み渡ったとき、天を仰いでしまった。
私たちは他人の心を読むことはできない。だけど寄り添うことができる。考えることができる。
日曜劇場『御上先生』(TBS系)第7話。毎話「これを神回と言わずしてなんと言えばいいのか」と思うが、今回もまた作品から大切なことを教えてもらった回だった。
※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。
椎葉の万引きが見つかり、退学処分となった。御上孝(松坂桃李)は、教室に戻ってきた椎葉に「話したいことある?」と問いかける。
彼女はクラスメイトに、亡くなった両親のこと、祖父が認知症になったこと、万引きをしたこと、そしてマッチングアプリでサクラのバイトをしていたことが、退学の決定打になったことを打ち明ける。
ここで御上が「なんで(盗んだのが)生理用品だったの?」と投げかけた。
是枝文香(吉岡里帆)は「やめてください!女性に対してそんな質問は見過ごせません」と止めに入るも、これは椎葉の問題であるから、質問に怒るのも答えるのも椎葉が決めていい、と富永蒼(蒔田彩珠)が促す。
じつは、「同じことを話すとしても、全力でかばってくれる人がいるのといないのとでは多分違うから」と富永に間に入ってくるよう依頼していた御上。彼は是枝が椎葉をかばうと予測していたのだ。それはそうだ。あれだけ生徒のことを見抜ける彼が、そばにいる是枝のことを見抜けないわけがない。生徒に愛情を持っている彼女なら、必ず止めに入ると分かっていたし、それが椎葉にとって心強い味方になることにも気づいていた。
椎葉はそうして止めてくれた是枝に対し「私、今日はそのことを話しに来たんです」と語りかける。ここでも御上は事前に「なぜ盗まなければならなかったのか、話したいと思うか」と彼女の気持ちを聞いていた。彼女もそれなりの覚悟があってクラスメイトに話をしている、というわけだ。
椎葉は、祖父が営む和菓子屋のことを語り始めた。和菓子屋では赤飯を作っていて、近所の人はその赤飯で初潮を祝う。
「私はそのおかげで生理っていいものなんだ、女の子にとって大切なものなんだって信じることができたんです」
しかし、家庭環境が一変。椎葉は、相談できる人がいることにも気づけないほど追い込まれ、ひとりで思い悩むことも多くなった。
「なのに生理が来る。私、生きてるんだなと思い知らされて。私はここで血を流しているのに、誰も気づいてくれないって。苦しくて。私は、私がここにいるってことを見つけてほしかったんだなって気づいたんです」
そう言ったあと「聞いてくれて、ありがとう」と涙を流しながら頭を下げると、御上は「こちらこそ大切な話をありがとう」と感謝を述べた。
「生きる」というのは苦しさが伴う。誰にも相談できず、ひとりで悩み、ひとりでのたうちまわることがある。だが、椎葉の見えない部屋の鍵を壊し、扉をこじ開けてくれた人がいた。それが御上であり、是枝であり、「ごめん、ごめん……」と泣いてくれた千木良遥(髙石あかり)、そして話を聞いてくれたクラスメイトたちだった。
真っ先に「こういう場合、私たちはどこに抗議に行けばいいのでしょうか?」と席を立ったのは、これまで授業を優先してほしい、と訴えていた櫻井未知留(永瀬莉子)だったこと、生徒たちが貧困問題と向き合い、退学処分撤回に向けての署名活動をしてくれたこと、そして和菓子屋が潰れないようにどうすればいいか提案してくれたことなど、告白後、椎葉にとって「ひとりじゃない」と感じられた瞬間がたくさんあったことだろう。
御上は生徒を孤独にしない。富永に依頼したことも、同級生の前で話をするよう場を設けたことも、すべては椎葉のためである。御上がいたことで確実に救われた彼女はもちろん、椎葉が大切なことを話してくれたことで、生徒たちはまたひとつ大きなものを手に入れることができた。今回は、生理のこと、ヤングケアラーのこと、貧困問題などさまざまなことを考えた1時間だったし、3年2組の生徒たちが自ら“考えて”行動したことも、なんだかすごく嬉しかった。
「生きる」というのは苦しさが伴う……が、生きるうえで大事なものを得て、希望を取り戻す瞬間もある。苦しいことばかりじゃない。そう信じたい。
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