2025年1月、12年ぶりに古巣エヴァートンへ帰還し、シーズン途中就任ながらチームを立て直したデイヴィッド・モイーズ監督。クラブにとっては新スタジアムで迎える歴史的な新シーズンを直前に控え、百戦錬磨の指揮官は何を思うのか。チーム再建への確かな手応えと未来への視線、日本との関わりや印象について訊いた。
グリーリッシュが新加入「彼がイングランド代表に、再び近づけることを願っている」
──はじめに、夏休みはどのように過ごされましたか?毎年恒例にしていることなどはありますか?
モイーズ:サッカーの監督にとって最も大切なのは、良い休暇を取ることです。シーズンは非常に長く過酷で、休む暇もありませんからね。
私はフロリダで少し時間を過ごしました。それから、今年アメリカで開催されたクラブワールドカップの試合もいくつか観戦しました。そしてこちら(イギリス)では大変幸運なことに、国王陛下からOBE(大英帝国勲章)を授与されました。これは非常に名誉なことです。ですから、とても楽しい夏を過ごせましたよ。
──昨シーズンは12年ぶりにクラブに復帰され、最終的に勝点48の13位という成績でした。シーズンを振り返っていかがでしたか?
モイーズ:私が1月に到着した時、チームが降格争いに巻き込まれるのではないかと心配していました。ただもちろん、その状況は理解した上での就任でした。
私は以前、このクラブで11年間監督を務めていたので、クラブのことはよく知っていますし、多くを理解しています。しかし、正直なところ、昨シーズン終盤のような結果は予想していませんでした。本当に素晴らしい結果でしたね。選手たちはとても良くやってくれました。彼らを大いに称賛しなければなりません。シーズン前半の流れを、後半で見事に好転させてくれたのです。
もしシーズン当初からあの調子だったら、ヨーロッパの舞台への出場権も得られていたかもしれません。ですから、選手たちには賛辞を贈りたいです。そして、私自身もここに戻ってこられて本当に嬉しいですし、楽しんでいます。ここ数年、困難な状況にあったクラブを再び築き上げようと試みているところです。
──昨シーズンのエヴァートンはマンチェスター・Cと並んでリーグ4位タイとなる44失点と、非常に守備が堅固でした。今シーズンも、堅守をチームのベースにしていくお考えでしょうか?
モイーズ:もちろんです。私は常に、最高のチームにはおそらく最高のディフェンスがある、と信じています。攻撃的でエキサイティングなサッカーもよく話題になりますが、相手の得点を防ぐ優れたディフェンダーがいなければ意味がありません。
ですから、その堅守を維持できることを願っています。我々には非常に重要な選手たちがいます。イングランド代表のゴールキーパーであるジョーダン・ピックフォード。そして、ジャラッド・ブランスウェイトとジェームズ・ターコウスキーも昨シーズン、我々にとって非常に重要な選手でした。チームが多くのゴールを許さなかったことに、大きな影響を与えてくれたのです。今年も同じようにできることを期待しています。そうできれば、リーグでさらに上を目指すために必要な勝利を得るチャンスが生まれるはずですから。
──この夏期限付き移籍で加入したジャック・グリーリッシュ選手は、このチームに何をもたらしてくれると思いますか?
モイーズ:ここ数年、多くの人々が知っている“あの”ジャック・グリーリッシュの姿が見られることを期待しています。ジャックにはここに来て、チームに大きな影響を与えてほしい。
しかし、さらに重要なのは、ジャック自身にとってのことです。今シーズンの終わりにはワールドカップが控えています。彼のパフォーマンスによって、イングランド代表チームに再び近づけることを願っているのです。そのためには、彼がアシストを決め、ゴールを奪い、試合にインパクトを与えてくれる必要がある。そして、彼がそれを成し遂げれば、間違いなくエヴァートンのレベルアップにも繋がるでしょう。
──多くのファンが彼の加入に興奮していますが、監督ご自身が彼を説得されたのでしょうか?
モイーズ:いや、その手柄を自分が受け取るべきかは分かりませんね。もちろん、彼とは何度か話をしました。以前にも似たような状況がありました。マンチェスター・Uでうまくいっていなかったジェシー・リンガードが、私がウェストハムにいた時に加入し、ゴールを量産して再びイングランド代表に選ばれたのです。
ですから、ジャックとも非常に似たような関係を築けることを願っています。彼が我々にとって重要な選手になってくれれば、それは素晴らしいことです。
「日本人選手の市場は、かつてないほど興味深いものになっている」
──今シーズンは新スタジアムの完成もあり、クラブにとって歴史的な一年になります。新しいヒル・ディッキンソン・スタジアムは、チームにどのような影響を与えると思いますか?
モイーズ:私たちは皆、この素晴らしい新スタジアムができたことをとても誇りに思うべきです。すべてのエヴァトニアンが長い間、新しいスタジアムを待ち望んでいました。それが今、現実になったのです。これからは、そのスタジアムを満員にするチームを作らなければなりません。サポーターに声援を送るに値する、優れたフットボールチームが必要です。
クラブは近年、暗い日々を過ごしてきました。ですからこの新スタジアム、チーム力の向上、そして何人かの新戦力の獲得が、エヴァトニアンがもっと幸せに感じられるような何かを与え始めていることを、願っています。
もっとも、監督の私としては、まだやるべきことがたくさんあると感じています。もっと選手を獲得しなければなりませんし、昨年のレベルを維持し、さらに向上させ続ける必要があります。昨シーズン終盤の好調な状態から、さらに成長していかなければならないのです。
──新スタジアムの映像を拝見しましたが、スタンドの傾斜が非常に急で驚きました。日本では安全上の理由から、ああいったスタジアムはあまりありません。
モイーズ:ええ、本当に素晴らしいスタジアムだと思います。私たちはプレミアリーグやヨーロッパ中で、多くの良いスタジアムを見る機会に恵まれていますが、 あなたもきっと楽しめますよ。非常に急なスタンドですが、我々がグディソン・パークで作り上げてきた雰囲気を、この新しいスタジアムでも継続していきたいと願っています。
──そのグディソン・パークを女子チームが使用し続けるというのは、素晴らしいアイデアだと思います。エヴァートンの人々にとって、グディソン・パークはどのような意味を持つ場所なのでしょうか?
モイーズ:私も良いアイデアだと思います。グディソンは本当に重要な場所ですから。新スタジアムへ移転しても、我々の歴史においてグディソンが存在し続けることは、これからも非常に重要であり続けるでしょう。
ご存知の通り、今や女子サッカーは世界中で非常に人気があります。女子チームがプレーするには、本当に良い会場だと思います。我々はエヴァートンの女子チームにも、より多くの投資を行っています。ですから、彼女たちがスタジアムでのプレーを楽しみ、そして人々がこれからもグディソンに試合を観に足を運んでくれることを願っています。そうなれば素晴らしいですね。
──私たちU-NEXTは日本でプレミアリーグを配信しているのですが、モイーズ監督と日本の関わりについてお聞かせください。例えば、「日本」と聞いて何を思い浮かべますか?
モイーズ:いま私の頭に浮かぶのは、近年セルティックが日本から獲得した選手たちのクオリティの高さです。セルティックは非常に多くの優れた日本人選手と契約しました。彼らは素晴らしい活躍を見せ、様々な面でセルティックを変革したと言えるでしょう。
私自身も、マンチェスター・Uの監督時代に一度だけ日本を訪れる機会があり、本当に素晴らしい国だと思いました。また、先週は名古屋グランパスからゲストが視察に来てくれました。彼らはとても親しみやすく、トレーニング見学などを楽しんでいましたよ。
ですから、将来もっと日本を訪れる機会があればと願っています。とても関心のある国です。もちろん、日本の食事、特にお寿司は私にとって非常に魅力的です。
──香川真司選手のことも忘れないでください。
モイーズ:ええ、シンジ!彼は元気にしていますか?
──はい、Jリーグで元気にプレーしています。
モイーズ:そうですか。もし彼に会う機会があったら、私からよろしくと伝えていただけますか?
──最後の質問です。新スタジアムでの最初の公式戦は、8月24日(現地時間)のブライトンとの対戦です。対戦相手の印象と、ブライトンに所属する日本代表・三笘薫選手についてどう思われますか?
モイーズ:三笘を含め、彼らは卓越した選手たちです。才能があり、素晴らしい結果を残しています。ブライトンは非常に良いクラブで、先進的なクラブだと思います。彼らが大きな変化をもたらしたことは間違いありません。
そういう観点から見ても、今ヨーロッパにおける日本人選手の市場は、かつてないほど興味深いものになっていると感じます。そしてそれは、我々クラブとしても、より関心を深めていきたい分野です。日本の若い選手たちをもっと追いかけ、彼らの成長を見守り、プレミアリーグでプレーするに足る実力があるかどうかを、見極めていきたいと考えています。
──ありがとうございました。新シーズンのご幸運を祈っています。
モイーズ:こちらこそ、どうもありがとう。