秘密の社内恋愛を描くラブコメは数あれど、職場では他人を装う夫婦が主人公という逆転の発想がユニークなドラマ『五十嵐夫妻は偽装他人』。U-NEXTで配信中の海石ともえによる同名漫画を原作に、お互いが気になりながらも反発し合う夫婦の“もだもだ”した関係を描き出す。
家出中の妻・会沢真尋を演じるのは、テレ東ドラマ初主演となる新川優愛。夫の五十嵐直人役は、昨年の大河ドラマ『光る君へ』で一条天皇役に扮して注目の塩野瑛久が扮する。別居中の夫婦の直人と真尋は、お互いに相手に告げずに転職。すると2人の転職先は偶然一緒で、しかも同じ部署で働くことに。
紆余曲折の末、やっと別居解消となった真尋と直人。そんな中、真尋は父を見舞いに行った病院で、20年ぶりに母・如月春奈(黒木瞳)とついに再会することに。実の娘になんと非難されようと自分の生き方を貫く春奈の言葉に、真尋は心を動かされ…。一方で、直人は部長からの海外赴任の話を、真尋に相談もせず断ってしまう。「よかれと思って」のこの直人の行動に、真尋はどんな反応を返すのか!?新たな壁にぶち当たった夫婦の関係が気になる、第11話をレビュー!
※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。
「五十嵐には、支部長としてシンガポールに赴任してもらいたいんだ」
部長の竹橋(水橋研二)から突然の海外異動を打診された直人。せっかく真尋と仲直りしたというのに…というところから、佳境の第11話はスタート!
生活の中の細かいことはチクチク言うわりに、こういう肝心なことははっきり真尋に言い出せない直人。転勤は早くて3カ月後、1カ月後には行くか行かないかの返事をしなくてはならない。もだもだしてる時間なんてないのでは?
「仕事好き?」
寝室にまでパソコンを持ち込み、仕事に打ち込む真尋を前に愚問でしかない質問をする直人に、何も知らない真尋は幸せいっぱいの笑顔でそれを肯定する。
しかも、仲直りした夜、「よく眠れた」と直人に言った真尋。自分を捨てた母との確執から、夫婦という関係に根源的な不安感を持つ真尋が、そんなことを言う意味を直人は噛みしめるべき〜!
そんな中、父・雪人(相島一之)を見舞いに行った真尋は、なんとそこで、海外で暮らしているはずの母と偶然に遭遇する。
しかし、20年ぶりの母娘の再会だというのに、春奈はまるで何事もなかったかのようにケロリとして、「あなた、そんなに背が伸びたの?」と悪びれた様子はゼロ!
しかも、「展示会の準備があって久しぶりに日本に帰ってきたと思ったらコレよ!」と、雪人の病気を「コレ」扱い。
「こんなにタイミングよく倒れるなんて、あの人、よっぽど私に会いたかったのね」と無神経な言葉を放ったかと思うと、「よかったね〜。お父さんに似なくて。こんな美人に生んであげたんだから、感謝してちょうだい!」と、ルッキズム丸出し&どの口が「感謝しろ」と言う?と思うような発言もぶちかます。
真尋は目も合わさず、「あなたに似たくなんかなかったです」と沈んだ表情で言い返す。
これには春奈も少々動揺した表情にはなったものの「じゃあ、お元気で〜!」とあっさり真尋に別れを告げて、雪人の病室に入っていってしまうのである。
いやいや!真尋母、常人には推し量れないメンタリティ!!自分本位すぎる!
…といっても、演じているのは黒木瞳である。シンプルにただ自己中な母親というだけなのか?と、観る者にふわっと思わせるのがまた絶妙。
しれっとした表情の中にも「もしかしたらなんか違う本心がある?」と思わせる、でも、やっぱりなんも考えてないようにしか見えないという、実にナチュラルでニュアンスのあるお芝居が素晴らしい。ショッキングピンクに黒レザーのミニスカというど派手なファッションがまた、違和感なく似合うあたりもさすがである。
そして、場面は夕食のパスタを作る五十嵐夫妻の日常へ。
仲睦まじくキッチンに並ぶ2人だが…、やっぱりいちいち細かい&自分がいいと思ったことを押し付けがちな直人と、「同じ轍は踏むまい」と、それに対して本音を飲み込んでしまう真尋との関係は、どこまでも噛み合わないのが切ない。
このままでいくと、元の木阿弥になる予兆がありすぎる!
一方、コントラクト事業部が取り組んでいる温泉ホテルのリフォーム案件のコンペに向けて、子どもを持つ両親の意見を吸い上げる機会を持った真尋と直人。
子育てを優先するために頑張る人たちの言葉を聞いて、真尋は切なげにつぶやく。
「うちの母親とは大違い。私はああはならない…」
すると直人は、そんな真尋に「大丈夫だよ」と声を掛ける。「俺が一緒だから大丈夫」と。
いや、海外出張の件でなんの相談もできてない時点で、大丈夫にはとても思えないのだが!!!!!!!
しかし、直人本人はさっぱりそこには思い至らず、あくまでも爽やかな笑顔がイケメンすぎるのが切ない。涙。
一方、なんだかんだ仲良くなったらしき翠(兵頭功海)と美羽(田辺桃子)。チョコミントドリンクにハマったという翠に、「好きな人の色に染まるとか、ただの乙女じゃないですか」と美羽はツッコミを入れる。
図星を突かれて押し黙る翠の、なんともいえないキュートな表情にキュンです♥
美羽は美羽で、ハイスペ男子しか登録できない婚活アプリを大いに活用中。「とりあえず100人釣れました!余裕かもです!」とドヤ顔である。”恐ろしい子”から”強い子よい子”へと脱却する姿は、もはや清々しい!
たくましい美羽の様子を、苦笑いしながらも穏やかに見守る翠。もはや菩薩…。
そんな中、真尋の仕事にも動きが…。竹橋部長から、温泉ホテルのコンペのプロジェクトリーダーを任されることになったのだ。「頑張ります!」と笑顔で快諾する真尋。ここまではよかったのだが、ここで部長が余計なひと言を。
「なおさら悩ませちゃってるよね〜。海外赴任が夢だったとはいえ、このタイミングだもんなあ」
よもや、直人が海外赴任のことを真尋に言っていないとは思っていない部長の大失言である。一気にブルーな表情になる真尋…。
そして翌日、真尋は父の見舞いに再び病院を訪れる。と、病室に忘れ物を取りに飛び込んできたのは春奈!
これをきっかけに、真尋は春奈とようやくちゃんと2人だけで話しをすることに…。
「インテリアの仕事をしていて、夫も同じ会社にいる」と自身の現在の身の上を話す真尋に、まったく無関心でスマホをいじる春奈。
真尋は、そんな母を「興味ないよね。子どものことより自分の仕事の方が大事なんだから」と責める。
しかし、春奈は「そうね」と一向に意に介さず。
「あの頃、ほかに選択肢はなかったわ。結婚したら家族のために生きることを選ぶ人もいる。でも、私は自分を捨てたくなかった」
後悔はしていないときっぱり言い切る春奈だが、もちろん真尋が納得できるわけがない。
「罪悪感とか、そういうのないんですか?」
誰もが思う疑問を母に投げかける真尋。しかし、春奈はそれに対してもきっぱり言い切る。
「自分の思いを蔑ろにするのは、罪じゃないの?」
なんと、自分本位を正当化!
真尋も思わず「家族を捨てた自分勝手な自分を正当化しないでよ!」と叫ぶ。
子どもの立場からしたらまさにそう!…なのだけれども、自分の生き方を貫く春奈には、そんな子どもの悲痛な訴えはのれんに腕押し。
「家族のために自分を殺してまで生きるのは、どうかしら?」
これはこれで正論なのである。「一個の人権を大切にすべき」という春奈の正論VS「生んだ人間としての責任をまっとうせよ」という真尋の正論…。
共働きの世帯が増えている現代。春奈の時代よりは、女性がこの「人権と責任」のバランスを取りながら生きやすい時代にはなっているかもしれないが、やっぱりまだまだ、家庭を持つ女性が完全に自由に自己実現を果たせるかというと難しいのが現実だ。
「そうするしかなかった」春奈は、自分の中の正論を盾にして、生き抜くことしかできなかったのではないか。だからこそ、今更になって娘を「大事な家族」として扱うのは、彼女にとっては逆に傲慢なふるまいだと思えてしまうのかもしれない。
都合のいい時だけ家族ヅラなんてできない…だから、ことさらに春奈は真尋を他人のように扱うのかも?
黒木瞳の演技からは、そんな春奈の持つ複雑な背景があくまでもふわっと漂ってくる。この「言外に匂わせる」という佇まいが春奈というキャラクターの肝なのだろう。
下手に演じれば、ただのお涙頂戴キャラ、もしくはガチでムカつくだけの女にしかならなそうな人物なのである。しかし、黒木瞳という大女優が演じることで、この複雑なキャラクターの中に1本ガシッと筋が通り、リアルな人間像としてそこに浮かび上がる。
そして、そんな“自分を曲げずに生きる”母の言葉は、ついつい直人に合わせて自分を殺してしまいがちな真尋に、ズドーンと真っすぐにぶっ刺さるのである。
(自分だって直人を立てるために自分を殺してしまうたび、チクチクと心を痛めてきたではないか!そんで家出までしちゃったじゃないか!あんなに同じになりたくないと思ってた母親と一緒じゃん!)
もしかしたら、真尋はそんなことを感じていたのかもしれない。彼女のことだから、それが心の中で言語化されてはいないのかもしれないが…。
それにつけても、夫婦にしろ、親子にしろ、ビジネスパートナーにしろ、人が人を尊重しあいつつ自由に生きるって難しい。すべからく社会に生きる人々が向き合わざるをえない命題である。
ホント深いぞ、このドラマ。
一方、直人は直人で斜め方向の行動に!
親子3人連れのほのぼのした姿を見送りながら、家族にまつわるトラウマに苦しむ真尋を思い浮かべ、「大丈夫…」とつぶやく直人。
…ちょっと待て。何が大丈夫なのよ!おばちゃんに言うてみなさい!!…てな気分になりつつ、展開を見守ると…。なんと!直人、真尋には一切、相談もせず、部長に頭を下げて海外赴任を断っているではないか!
えええ!!!!それは、全然だいじょぶない…。
これを真尋によかれと思ってやっちゃうところが直人のダメなところなんである。上っ面の優しさでコーティングした、ただの独断専行でしかない!
しおしおの顔で「本当にいいのか?」と念を押す部長。直人がこの会社に転職してきたのは、彼の夢である海外勤務があるからでもあった。それを知る部長の優しさである。
…てか、そもそもその夢をなんで真尋と共有してないのよ!とも思ったりもするが。
「今は、妻と一緒にいたいんです。いなきゃダメなんです」(キリッ)じゃないんすよ、ホントに…。妻を思いやってると見せて、真尋の気持ちはガン無視の展開ですよ…。直人、そこに気づけ!
部長との話を終えて部屋を出た直人を、「立ち聞きしました」と待ち構えていたのは翠である。ストーカーみたいでちょっと怖い感じもするが、翠の気持ちはおそらく視聴者と同じ!
「会沢さんは、このこと知ってますか?」
しかし、直人は「真尋を混乱させる必要はない」と聞く耳持たず。
「そんな肝心なこと話せないで、夫婦って言えるんですか?」
畳み掛ける翠に、「お前には関係ない!」とつい声を荒げる直人。
しかし、翠はひるまない。
「元サヤに収まりそうだからって波風立てずにやり過ごす。美しき隠蔽工作だ」
そう言われて、何も言い返せない直人。
「会沢さんをこれ以上傷つけるなら、俺は手を出す」
きゃー!ついに出ました、翠の略奪宣言!不倫はイケナイこととはわかっていても、思わず「頑張って♪」という気持ちにもなってしまうところがヤバいドラマである。汗。
もちろん、真尋と直人に仲良しでいてほしい気持ちもいっぱいあるのだが、直人がこんなんだからね…。やむなし…。
とかいいつつも、宣戦布告されて翠を睨みつける直人のクールな美貌には思わず見とれてしまう…。ホント、ヤバいドラマである。大汗。
そして帰宅時間。真尋を失いたくない気持ちでいっぱいの直人は、彼女が待つ夫婦のマンションへ向かって思わず駆け出す!
真尋の気持ちはないがしろにするくせに、真尋のことは大好きなんですよ。だからこそ、かえってたちが悪いとも言える…。直人にはまったく悪気はないのである。
そして夕食を食べながら、直人は異動の話があったことをやっと真尋に切り出す。「もっと早く相談してくれればよかったのに」と返す真尋は、以前からそれを知っていたことを直人に打ち明ける。
事後承諾で進めるつもりの直人と、夫婦の未来にかかわることを2人でこれから相談して決めようと思っている真尋。
もう、絶対的に関係性悪化の予感しかない…。
思ったとおり、「断ったよ。俺は真尋と一緒にいたい。だから、心配しないで大丈夫」と告げる直人に、真尋は唖然呆然。
「ひとりで勝手に決めたの?」と言う真尋に、「余計な心配かけたくなくて」と直人。
真尋は「何が余計なの?これからの2人の問題でしょ?」と言い返す。しかし、直人はピンときていない様子。「夫婦だから、一緒にいるべきだと思ったんだよ」とあくまでも独断専行なのである。無自覚に。
「2人のことを思って…」と言い返す直人に、真尋は言う。
「じゃあ、直人は2人のために自分のやりたいこと我慢して、本音を隠して、全部相手に合わせるの?」
感情的になる真尋に、「なんでそんな…」と直人はやっぱりピンときていない。
ここで真尋が直人に言い返した言葉がしんどい。
「だって、それじゃ自分が自分じゃなくなっちゃうよ…」
嫌でも昼間の春奈の「家族のために自分を殺してまで生きるのは、どうかしら?」という言葉が思い浮かんでしまう!
「ああはなりたくない」と思う母と、全く同じ言葉を今、愛する夫に言っている図式なのである。しんどすぎる…。でも、これが真尋の本音。
「それって、真尋のこと?」
鈍い直人もようやく気づく。
「真尋は俺といると自分らしくいられない。だから、あんなに頑張ってたの?」
正義の人である真尋には、おそらくは耐えられなさすぎる自己矛盾。
これは真尋の心はグチャグチャでしょう。見ていていたたまれなさすぎて、もらい泣きしてしまう…。
ホントにホントに、尊重しあって自由に生きるって難しいよね〜!!
家を飛び出し、泣きながらふらふら街を歩く真尋を、後ろから捕まえたのは…翠!
「すごい偶然だね」と強がって笑う真尋に、翠はついに言ってしまう。
「もう、俺にしませんか?」
きゃーー!!「するする〜!」とモニターに向かって二つ返事で返した女子も多かろう…。
突然の翠の告白に、真尋はどう出る?そして、なんだかんだ真尋が大好きな直人の想いは通じるの?
次回はいよいよ最終回!どんな結末が五十嵐夫妻を待っているのか?心して待つ!!
第11話の視聴はこちらから
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