一緒に泣くしかなかった。涙が止まらなかった『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS系)第7話。
これまで弁護士・松風義輝(松山ケンイチ)やラーメン屋台の店主・染田進(酒井敏也)、検事・阿南由紀(瀧内公美)など、登場人物の過去が描かれてきた本作だが、今回は改めて山下心麦(広瀬すず)の出生の秘密について触れた回であった。
※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。
心麦と松風は、春生(リリー・フランキー)の手紙や、心麦の母子手帳に書かれていた産婦人科医・阿波山京一郎(井上肇)と助産師の高畑まのか(大島蓉子)夫妻のもとへと向かう。
そこで、東賀山事件後、刑事の赤沢正(藤本隆宏)から、林川歌の出生証明書を偽造するよう依頼されたことが明かされ、心麦は春生と静香(仙道敦子)の子供ではなく、林川歌なのだ、と知る。
山下家が歌(心麦)を受け入れたときの映像が残っていた。春生が家に置いておけないから、と阿波山たちにカメラを託していたのだ。映像には、歌を心待ちにしている両親の姿、歌を見て笑顔になる両親の姿があった。静香は「今日からあなたは心麦ちゃん。よろしくね。家族の思い出いっぱい作ろうね」と話しかけている。春生もなんだか照れくさそうだ。歌を渡しに来た赤沢も、彼の妻・京子(西田尚美)も笑顔である。みんな笑顔である。その空間には、愛しかない。カメラに残されていた映像を見て、心麦は溢れる涙を止めることができなかった。
阿波山と別れたあと、近所の喫茶店へと立ち寄った心麦と松風。心麦は、幼いころに「注射のご褒美」として、この店のクリームソーダを飲んだ思い出があった。店員からメニュー表を渡され「オムライスも食べようかな」と言う彼女に、松風は「俺は(注文は)いいや。食べきれないでしょ」と返した。
そんな会話をしていると、赤ちゃん連れの家族が来店した。赤ちゃんはぐずって泣いている。赤ちゃんを見た心麦は「いいなあ」とつぶやく。ただ、自分自身、何がうらやましいのかは分からない。“愛されてたって知ってるのに、二人とも何も言わずにいなくなったから?”。……いや、違う。悔しいのだ。
ここで涙が止まらなくなる心麦。松風は慌てることなく静かに席を立ち、彼女にハンカチを差し出した。赤ちゃんの泣き声と心麦の泣き声が店内中に響き渡る──。
もちろん、彼女ほどのことがなくても、人間には感情がこみ上げてきて、我慢できずに涙を流してしまう瞬間がある、どうにも泣けてくる瞬間がある。今回の心麦も、我慢する間もなく、ダムが決壊したように涙があふれ出た。ただ、同じ涙のシーンでも、ただ泣いているわけではない。広瀬が、それぞれ違った感情を表現して、心麦の想いを感じる涙を流していたのだ。
ドラマには泣きのシーンはなくてはならないものである。登場人物が泣くと、分かりやすく感動する場面となるが、観る側の気持ちがリンクしていないと没入できない。だが、今回の俳優・広瀬すずが見せた二度の涙には、魂が震えるほど感動した。多くを語らずとも、彼女の想いが伝わってきた。
感情を吐き出すように泣いた心麦を見て、より物語に入りこめた人、むせび泣く彼女を見て、こみ上げるものがある人、またはもらい泣きせざるを得なかった人も多くいたのではないだろうか。山下心麦として物語を生き、彼女に寄り添う広瀬だからこそ、私たちも演技をこえた“なにか”を受け取ったのだと思う。
その後、心麦が車内で感謝を述べつつ「松風さんがいなかったら……オムライス完食できなかったです」、「そっちかよ」、「冗談です」という会話は、相変わらずの関係性が垣間見えるシーンであり、とても素敵な場面だった。ラストに向けて走り出しているだろうが、こんな心麦と松風のやりとりも変わらずにあってほしいものである。
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