文科省官僚・御上孝(松坂桃李)が、隣徳学院3年2組の教師となって数日が経った。御上は、勉強と共に必要な「考える」機会を生徒に与え、29人の学生たちもまた逃げることなく問題や事象と向き合おうとしている。
日曜劇場『御上先生』(TBS系)第3話のタイトルは「-beginning-」。とうとう物語が動き始めた。
※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。
倉吉由芽(影山優佳)は、登校してきた神崎拓斗(奥平大兼)に質問を投げかけた。割って入ろうとするクラスメイトに「私のターンだから」と制し、現在の状況を聞く。御上は途中で教室に入ってきたが、止めることはなかった。
授業終了後、櫻井未知留(永瀬莉子)が御上のもとへ。倉吉は悪くないと前置きしつつ「授業中に横道にそれるのなんで止めてくれないんですか?」と問いただした。
すると、倉吉が席を立った。帰国子女の倉吉は、アメリカだと授業でも意見を言わされることが多く、高校生はディベートの授業もあって……と説明をするも「そんなことを言っているんじゃなくて」と櫻井。
しかし、倉吉は冷静に「まず、聞いてよ。ちゃんと最後まで聞くの議論では大切だって教わるよ……みたいなことを日本に帰ってきてからも言ってたの。でもそれじゃダメなんだね。言いたいことは胸にしまっておかないと、『空気読めないやつだ』って嫌われる。この国は本音と建前の国なんだって思い知らされて、すごく怖くなった」、「だから自分にとって大切なことほどのみこむクセがついた。そんな自分が嫌になって。でも神崎の話、聞きたいって思ったから」と本音を述べた。
「本音と建前」、「空気を読む」……なんだかグサグサと胸に刺さった。確かにそんな人が多い気がするし、私もそうだ。空気が壊れるくらいなら「言わない」選択をいつも選んで、いつのまにか自分の意見が持てなくなっている。そして、倉吉のような人間と相対したとき、無意識的に「空気の読めないヤツだ」と排除する側に回っているのかもしれない。それが相手の自由を奪うとも知らずに──。
また、意見がぶつかり合うと、つい感情的になって、自分の主張を押し出してしまうのは、「大人何十年生」になってもやってしまうこと。熱を持つことは素晴らしいが、冷静になって相手の話を聞き、咀嚼することも大切……と改めて感じた。
こうして、視聴者のなかでも「自分はどうか」と思考をめぐらせた人もいたはずだ。御上の言う「考えて」というキーワードが頭をかけめぐる。
この他、東雲温(上坂樹里)が御上に訴えるシーンも印象的だった。
元中学教師の父は、独自の教科書で授業を行ったことが問題となり、結果的に自主退職。それがきっかけで、母親とも離婚したという。
「学校の教科書は『教科書検定』に通った教科書を使用しなければならない」
文科省が決めたこのルールのせいで、めちゃくちゃになった家庭があると考えたことがあるか、と問われた御上だが、迎合することなく「ないかな。家庭の平和を守るために学習指導要領があるわけじゃないからね」と返答した。
その後、東雲の家庭事情を聞き、中学の学習指導要領を読んだという富永蒼(蒔田彩珠)が解説することに。彼女のおかげで、学習指導要領の分かりづらさが浮き彫りとなった。
御上は東雲に「どうしたらいい?変えたいからみんなに問題提起したんじゃないの?それとも僕に謝ってほしかっただけ?……考えて」と投げかけた。
作中、富永は「(学習指導要領の)根本的なところから知らないと何も言えない」と話していたが、まさにその通りで、どんなことでも我々はひとつの側面しか知らずに文句を言ってしまうことが多い。すべてを知らずとも、知る努力くらいはするべきである。そして、一部のみを汲み取って糾弾するのはおろかなことなのだ、と気づかなければならない。
一方、東雲にも感情的になった面はあったし、おそらく何を訴えたかったのか、相手の反応がどう返ってきて、どうゴールに持っていくのか、明確に考えられていない部分もあったと思う。だが、是枝文香(吉岡里帆)が「いい問題提起だった」と言ったように、クラスメイトが動くには十分すぎる行動だった。
本当にこのドラマは、御上からも生徒たちからも教えてもらうことが多い。
『御上先生』は、視界にはとらえられなかった扉、もともと見えていたのに見ようとしなかった扉、鍵がかかっているから諦めて開けなかった扉など、心のなかにある扉を開けてくれるドラマだ。この作品が終わる頃には、自分の人生がより豊かになって、人間的にも成長しているのではないか、と楽しみになっている。そのためにも、1話ずつ丁寧に作品を見届けたい。
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