長年、NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)を見続けているが、現在放送中の『虎に翼』は非常に見応えがあり、毎朝見るのが楽しみでたまらない朝ドラだ。弁護士を目指して法律を学び始め、日本で初めて法曹の世界に飛び込んだ女性の実話に基づくドラマで、伊藤沙莉が主演を務めている。
『虎に翼』が朝ドラ初鑑賞という人もいる中、「こんなに話題になるなら見ておけば良かった」という人や、「途中で見るのをやめてしまったが、やっぱり続きから見たい」という人に向けて、本作の魅力を紹介しつつ、これまでの内容を前後編で振り返ってみたい。
※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。
2024年4月1日から放送がスタートした『虎に翼』。第1話の冒頭シーンでは、昭和21年(1946年)、主人公の寅子(伊藤)が河原で泣きながら日本国憲法が書かれた新聞記事を読む姿が描かれた。なぜ、寅子はひとりで泣いていたのか。その伏線は、第44話で回収されることとなる。
昭和6年(1931年)の東京。女学校に通う猪爪寅子は、父・直言(岡部たかし)と母・はる(石田ゆり子)から見合いを勧められていた。同級生の花江(森田望智)は女学生のうちに結婚することが夢だと語り、寅子の兄・直道(上川周作)と婚約するが、寅子は「女性は結婚して出産し家庭を守るのが当然」だという常識に納得がいかなかった。
ある日、猪爪家に下宿する書生で、明律大学の夜間部に通って法律を学んでいる佐田優三(仲野太賀)に弁当を届けた寅子は、教授の穂高重親(小林薫)と、彼の代理で臨時講師を務めていた裁判官の桂場等一郎(松山ケンイチ)と出会い、法律の世界に強い関心を示すようになる。
穂高から勧められ、明律大学女子部法科への進学を決めた寅子は、反対する母・はるにもどうにか理解してもらい、弁護士になる夢に向かって邁進する。
寅子がどんなに賢い娘でも、「結婚することが女にとって一番の幸せ」だと考えていたはるが、寅子の気持ちを理解して応援するようになるいきさつから、母娘の心情をよく描いていることが伝わってきて、本作に引き込まれるきっかけとなる第1週だ。
明律大学女子部法科に入学した寅子は、男子学生たちから大学内でからかわれる中、男装で目立っているよね(土居志央梨)、華族令嬢の涼子(桜井ユキ)、留学生の崔香淑(ハ・ヨンス)、弁護士の夫を持つ3児の母・梅子(平岩紙)ら同級生と一緒に、夢中になって法律の勉強をする。
女子部法科から法学部へと進学した寅子たちは、男子学生たちと席を並べて学ぶようになるが、花岡悟(岩田剛典)や轟太一(戸塚純貴)らは、やはり女性を自分たち男性と同じようには考えていないことを実感する。だが、寅子や梅子たちと関わるうちに、花岡も轟も彼女たちの優秀さや人柄を知っていき、法律を学ぶ仲間として認めるようになっていく。
ここまでで第4週が経過しているが、男尊女卑の風習が強かった時代背景が描かれる中、法律を学ぶ寅子たちが周囲の頑な考え方を少しずつ崩していき、女性の未来を切り開いていく様子に胸が熱くなる。
昭和10年(1935年)に起きた、日本を揺るがした大事件「帝人事件」をモデルにした「共亜事件」に父・直言が巻き込まれ、猪爪家は危機に陥るが、寅子の法律の知識が突破口になった第5週。大臣らを含む16人が逮捕・起訴されたのち、政財界の大物関係者にまで疑いが及んだ実際の事件を取り上げ、家族の絆と主人公の学びを重要な要素として描いた。
弁護士になるための「高等試験」に女性が合格するのは狭き門で、寅子たちに厳しい現実が立ちはだかる。夢半ばで諦めざるを得なかった同級生たちの中で、寅子はひとりだけ合格。女子部の先輩2人と寅子の計3人は、「初の女性弁護士誕生」と大きく報道される。だが、大学が開催した祝賀会で、「法改正がなされても結局、女は不利なまま。女は弁護士にはなれても裁判官や検事にはなれない」と、寅子は悔しさをにじませ、男女関係なく、困っている人を救い続ける弁護士を目指すと宣言する。
ところが、法律事務所に就職しても、依頼人は独身女性の寅子に弁護を頼むことを嫌がり、寅子の悔しさは増すばかり。度々お昼を一緒に食べ、親しい間柄だった花岡が別の女性と婚約したこともあって、結婚によって社会的な信用度や地位が上がると痛感した寅子は、その手段として、まるで契約のように、優三と結婚する。
実は、優三は昔から寅子に片想いしており、彼の気持ちを知った寅子も、優三の優しさに触れ恋心を抱くようになる。これは第8週のエピソードだが、優三は「朝ドラ史上、最も素晴らしい夫」だと視聴者から呼ばれるほど、理想的な男性として大人気に。
妊娠した寅子は、周囲から当たり前のように弁護士の仕事を休むように言われてしまう。弁護士資格を持っていないが、寅子と同じ事務所でサポートとして働いていたよねは、常にプレッシャーにさらされている寅子に、「お前はひとりじゃない」と励ましていたのに、妊娠したことも人づてに聞き、弁護士の仕事から遠ざかることを決めた寅子に失望する。寅子とよねの友情やぶつかり合いは、女子部の頃から描かれてきたのだが、深い絆で結ばれたと思っていた2人の決別がショックでたまらない。よねの物語も本作の大きな見どころで、よねと寅子の今後にもぜひ注目していきたい。
昭和19年(1944年)、寅子と優三の間に娘の優未が誕生するが、ほどなくして優三に召集令状が届いてしまう。寅子は優三のためにしてあげられなかったさまざまなことを謝るが、優三は「トラちゃんが僕にできることは謝ることじゃないよ。トラちゃんができるのは、トラちゃんの好きに生きることです。また弁護士をしてもいい。別の仕事を始めてもいい。優未のいいお母さんでいてもいい。僕の大好きな、あの何かに無我夢中になってる時のトラちゃんの顔をして何かを頑張ってくれること。いや、やっぱり頑張んなくてもいい。トラちゃんが後悔せず、心から人生をやり切ってくれること。それが僕の望みです」と優しく告げる。
この名セリフは、視聴者の心を鷲づかみにし、優三は「朝ドラ史上、最も理想的な夫」の地位を確固たるものにした。こんな夫が登場する朝ドラというだけでも、『虎に翼』を見るべき作品だと推す理由のひとつになるのではないだろうか。
そして、第9週・第44話。第1話の冒頭シーンに戻り、河原で日本国憲法が書かれた新聞記事を読む寅子は、戦争が終わっても帰ってこない優三の言葉を思い出して泣きつつ、新しい憲法から力をもらう。ちなみに、寅子が思い浮かべる優三の姿は回想シーンではなく、その都度、追加撮影された映像で、視聴者から「イマジナリー優三さん」と呼ばれて喜ばれている。
悲しみの中でも、前に進もうと決意する寅子。第45話では、寅子は法曹会館へと向かい、司法省の人事課長を務める裁判官の桂場に「裁判官として採用してください」と願い出る。
女性の裁判官がひとりもいなかった時代、新しい憲法のもと、裁判官を目指す寅子の物語が、第10週から描かれる。後編では、法曹界を突き進む寅子を中心に、さらに盛り上がる『虎に翼』の見どころに触れていきたい。
この記事の後半はこちらから。
ここまで偽家族として生活してきた3名が出した、“らしさ”溢れる結末に絶賛の声が寄せられた。