『アンナチュラル』が面白い!名作と言われる理由を分析!!
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『アンナチュラル』が面白い!名作と言われる理由を分析!!

2024.08.16 21:00

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この夏公開の映画『ラストマイル』、そして2020年に放送されたドラマ『MIU404』と世界線がつながるシェアード・ユニバース作品として、改めて光が当たっている石原さとみ主演のドラマ『アンナチュラル』。3作すべてでタッグを組んでいる監督・塚原あゆ子+脚本・野木亜紀子は、2018年に放送されたこの作品で初めてコンビを組んだ。

舞台となるのは“不自然死(アンナチュラル・デス)”と見受けられる遺体の死因を解明するために設立された、不自然死究明研究所=通称・UDIラボという架空の組織。石原演じる法医解剖医・三澄ミコトをはじめとするUDIラボのメンバーが、毎回さまざまな不自然死の背景を探る中で、事件や事故の真相に迫るミステリー仕立てのストーリーだ。放送開始から7年経つが、いまだに根強いファンが多いこのドラマ。遺体の解剖という本来は忌避的なテーマを描きながら、なぜ、ここまで人々の心を引き付けるのか?その秘密を分析してみた。

アンナチュラル
©TBSスパークル/TBS

石原さとみが演じる『アンナチュラル』の主人公・三澄ミコトの職業は、事件・事故の遺体を解剖して、死因を突き止める専門医・法医解剖医。遺体が謎解きのキーとなるドラマとしては、検視官が主役の内野聖陽主演のドラマ『臨場』(2009年・2010年)などがあったが、実際に遺体を解剖する法医解剖医という職がクローズアップされるドラマシリーズは、記憶にある限り、本邦初ではないだろうか。

逃げるは恥だが役に立つ』に引き続いての大ヒットで、野木亜紀子の評価をバク上げした本作は、今となっては名作ドラマとして名高いが、リアルタイムでは「遺体解剖」という4文字だけでどことなく避けて通りたい気持ちになった人もいるかもしれない。

しかし、それはまったくの早計だと、全話見終わった『アンナチュラル』信者はその人を全力で引っ張り戻したくなるはずだ。「遺体解剖」という題材だからこそ、単なるミステリードラマには終わらず、生命の尊厳というテーマがより強く浮かび上がるのだと物語を追ううちに気づかされるからだ。

このドラマの面白さを挙げると切りがないが、まず1つ目に挙げられるのは、個性豊かな登場人物たちだろう。

アンナチュラル_04
©TBSスパークル/TBS

かわいいルックスなのに朝イチで天丼をパクつき、その直後にいたって冷静に遺体にメスを入れるタフな女性・三澄ミコト。そして井浦新扮する、口が悪く尊大でパワハラ気質だが、3000件以上の解剖実績を持つ法医解剖医の中堂系。

さらに、市川実日子が演じる合コンのことを「異性間交流会だ」と頑なに言い続ける、ちょっと変わり者だが、いたって善人な恋活女子の臨床検査技師・東海林夕子や、窪田正孝扮する頼りなさげに見えて裏がある、ボンボン医学生のアルバイト・久部六郎と、みんな実に人間くさい魅力を持っている。しかも、キャスティングもそれぞれ見事にハマっている。

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©TBSスパークル/TBS

休憩のお茶にこだわる所長の神倉保夫(松重豊)や、ムーミン大好きな臨床検査技師・坂本誠(飯尾和樹)など、野木脚本ならではのディテールに凝った人物造形も、観る者がそのキャラクターに愛着を抱いてしまう大きな要因かもしれない。

そして、なんといっても大きな魅力は、やっぱりミステリー要素。個性的な人物たちが、毎回、遺体を解剖したり、現場に出向いたり、遺族や関係者に話を聞いたり、職業の枠を軽く飛び越えてドラマチックに活躍し、“不自然死”の原因を突き止めていくのだから心躍らないわけがない。

もちろん、医学的な見地を織り込んだトリックも秀逸で、ミステリーを楽しみながらちょっとした理系の知識も増えてしまう。

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©TBSスパークル/TBS

しかも、1話完結の謎解きに加え、縦軸となる2つのミステリーも観る者の心をグイグイと掴む。

前半の見どころとなるのは、一家四人無理心中事件で、ただひとり生き残ったミコトの過去をめぐる謎。ここでキーポイントになるのは、裏でスキャンダル誌の記者と通じて、スパイをしている久部の存在だ。彼がミコトの過去を探ることで、観る者も彼女の背景に興味が募り、先の展開へと気持ちがかき立てられることに。

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©TBSスパークル/TBS

さらに後半からストーリーの縦軸となる、中堂の恋人・糀谷夕希子(橋本真実)が殺された事件をめぐるミステリーも、クライマックスとして待ち受ける。

中堂は犯人なのか?「赤い金魚」の謎とは?そして、この事件に絡んでくる、「感じ悪いヒト選手権」があったら上位間違いなしのヤバキャラ、フリー記者の宍戸理一(北村有起哉)の存在もまたキーポイントに。出てくるたびに「イヤなヤツ〜!」とムキーッとなりながらも、その動向が気になって仕方ない。北村有起哉のねちっこい演技がまたヤバイ!

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©TBSスパークル/TBS

野木脚本には、エンタメの中に時事問題をさらりと交え、見ているうちにその問題の深刻さに気付かされてハッとさせられる、という特徴がある。

今作は、不自然死の8割が解剖されないまま処理されてしまう、先進国の中で最低水準の解剖率の低さという問題がドラマの中に織り込まれている。

その説明をUDIメンバーの雑談の中でサラッと伝える導入部がまずすばらしい。

“解剖率は東京23区は比較的高くて17%、最低地域は2%以下”という地域差について話すメンバーに、竜星涼演じるフォレスト葬儀社・木林南雲が「うっかり死ぬ時は場所を選ばないと」と軽口を叩くのだ。

そこへ所長が「うっかりじゃ選べないでしょ」と返し、メンバーは久部をのぞいて全員、遺体を前に大笑いする。

めちゃくちゃ不謹慎である。視聴者も久部と同じ気持ちで、彼らの無神経さに驚愕したに違いない。しかし、そのインパクトが観る者にその問題のことを強烈に印象付け、忘れさせないという効果も生んでいるのである。すごいテクである。

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©TBSスパークル/TBS

しかし、回を追うごとに無神経に見えていた彼らの、芯の部分にはしっかり情があり、その“不謹慎”さは医療従事者としての冷静さがゆえの態度でもあることがわかってくる。

ミコトはきっぱりと言うのだ。「法医学って死んだ人のための学問でしょ?生きてる人を治す臨床医のほうが…」と言う久部に、「法医学は未来のための仕事」だと。

後半戦、有希子を殺した犯人探しでスリルを煽るだけでなく、その犯人が判明してからの展開も素晴らしい。

「死因がわからなければ殺人を立証できない」という、現実社会にも起こっている悲劇に対しても問題意識を投げかける展開になっている。

毎回、終盤に流れる米津玄師による主題歌『Lemon』がまた、ひとつしかない命の重さ、その尊さにしみじみ感じ入っている視聴者の心にグッと染み込み、物語のテーマ性をより深いものにしていることも書き添えておきたい大事な魅力。

“主題歌”という言葉の意味を今一度、洗い直されているような気すらするくらい、ドラマにバシッとハマっている。

映画『ラストマイル』のシェアード・ユニバース作品『MIU404』のレビューはこちら

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