『アンチヒーロー』最終回。「共に、地獄に堕ちましょう」稀に見る傑作、その結末は?
長谷川博己が「殺人犯をも無罪にする“アンチ“な弁護士」を演じるTBS日曜劇場『アンチヒーロー』最終回をレビュー
長谷川博己が「殺人犯をも無罪にする“アンチ”な弁護士」を演じるTBS日曜劇場『アンチヒーロー』第7話。明墨が、司法の頂点にいる政治家と、絶対権力たる裁判官の不正を暴き、ついに12年前の事件解明への扉が開かれる──。
※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。
赤峰(北村匠海)と紫ノ宮(堀田真由)は、瀬古判事(神野三鈴)と糸井一家殺人事件の因縁を知り、明墨(長谷川博己)の狙いが瀬古判事であることにたどり着いた。
明墨は、目下の裁判の依頼人・沢原麻希(珠城りょう)の無罪を勝ち取ると共に、その冤罪の裏にいる瀬古判事に「それ相応の報いを受けさせる」と意気込む。なんと、裁判官を罷免させることができる“弾劾裁判”に持ち込むというのだ。
瀬古判事は、最高裁判事の座を狙って、次期法務大臣の最有力議員・加崎(相島一之)に近づき、加崎は、自分に邪魔な沢原を潰すために、瀬古判事を利用して犯罪者に仕立てあげた。明墨は、「金と欲で成り立つ世界は脆い。小さな風穴ひとつで、あっけなく崩れ去る」と、瀬古判事と加崎の繋がりを切り崩す策に出る。
明墨は、加崎の支援パーティに乗り込んだ。700人以上の来場者が集まり、加崎が壇上でスピーチをしている最中、逮捕されていた富田誠司(山崎銀之丞)が警備員を振り切りながら突入し、瀬古に「さんざん世話してやった恩を、仇で返すとはな」と詰め寄った。
富田は、自身が逮捕されるや加崎に近づいた瀬古が、明墨と結託して自分をハメたのだろうと考えたのだ。対して瀬古は密室に移り、「本当に法務大臣にふさわしいのは富田先生しかいません」と取り繕い、検察内部まで手を回して起訴を取り下げさせ、富田を釈放させた不正を吐露する。
実は、明墨はその会話のすべてを盗聴していたのだ。そして、瀬古が加崎に近づく前に富田と繋がっていたこと、そして瀬古が富田を切り捨てられない理由があると推測した。
ふたりの繋がりをあぶり出すべく、明墨は富田と同時に逮捕され、いまだ拘留中の第一秘書・小杉(渡辺邦人)に接触した。
はじめこそ、富田を陥れた明墨に食って掛かる小杉だったが、富田に切り捨てられ罪を被せられる可能性を示唆されると、明墨の弁護を受けて釈放された。
小杉は、富田と瀬古の間に収賄があったことを認めたが、証拠は残っていないという。そこで赤峰が、松永(細田義彦)の事件を持ち出す。すると富田の息子・正一郎(田島亮)が起こした傷害事件の証拠隠蔽のために、富田の指示で金をバラまいたことを告白し、裁判での証言を約束した。
しかし後日、小杉から証言の撤回を求める連絡が入る。なんと小杉は、加崎の秘書になったのだ。そしてその裏には、瀬古と伊達原検事正(野村萬斎)の暗躍があった。
武器をなくしたかに見えた明墨だったが、余裕の表情で次の手を繰り出す。週刊大洋の元副編集長・沢原の力を借りて動き出したのだ。
明墨は政治に強い記者である沢原とともに、孤立してしまった富田の事務所を訪れ、瀬古と小杉は最初から富田をハメるつもりだったこと、瀬古は味方のふりをしているが、今も検察に働きかけて再逮捕を狙っている、という話を吹き込んだ。
そして「あなたはすべてを失い、瀬古や加崎はのうのうと甘い汁を吸い続ける。こんなこと許していいんですか?今ならまだ間に合います。やられる前にやるんです。たとえ刺し違えても!」と声を荒げて富田を鼓舞した。
富田は、明墨の説得に応じ、マスコミを通じて瀬古に賄賂を渡していたことを告白。息子の犯罪を揉み消すなど便宜を図ってもらい、その代わり、瀬古を最高裁判所の判事に押し上げる約束だったことを明かし、賄賂を証明する帳簿を開示した。
実は明墨が狙っていたのは、小杉による富田の罪の立証ではなく、小杉が富田を裏切るように誘い、孤立した富田自身が瀬古との関係を自白することだった。明墨の張り巡らした二重の罠が、見事にハマったのだ。
瀬古は東京高等裁判所長官に呼び出され、弾劾裁判の訴追請求が受理されたと言い渡される。瀬古は再び加崎に助けを求めるが、もはや加崎は電話に出ない。取り乱した瀬古はさらに、伊達原に助けを求めるが、伊達原は「私にはもう、なす術がないようで」と一蹴する。
放心の瀬古を、明墨が訪れる。
瀬古は明墨に「私には力が必要だった」と、自分には女性の地位向上を果たす使命があると正当化する。
しかし明墨は、「それは沢原も同じ」と返す。沢原は、ひとりのジャーナリストとして正しいことをしようとしたが、邪魔に思った男たちによって、犯罪者にされてしまった。明墨は、「その気持ちを誰よりも分かってあげられるはずのあなたが、助けるどころか、その男たちと同じように、彼女を陥れようとした」と断罪すると、裁判官のバッジを指し、「八咫の鏡。ハッキリと曇りなく、真実を映し出す鏡。あなたの良心は私欲にまみれて曇ってしまった。そのバッジをつける資格はもうありませんよ」と告げる。
その言葉に、瀬古はバッジをむしり取り、法廷でひとり泣き崩れた。
富田誠司はすべての罪を告白し、警察に出頭。これにより、瀬古の弾劾裁判が開催された。
沢原の控訴審も無事無罪を勝ち取り、すべては明墨が目論んだ通りに進んだ。
そして明墨は、新たに東京中央新聞の記者になった沢原に入れ知恵をし、「糸井一家殺人事件冤罪か」という記事を世に送り出す。瀬古の不正が暴かれたことで、マスコミも志水(緒形直人)の無罪も検討しうると報じ始めた。糸井一家殺人事件の再審の可能性が見え始め、明墨の戦いの準備が整ったのだ。
明墨は、再び志水に接見し、再審の可能性を告げた。しかし志水は、再審はしないと取り付く島もない。
明墨は、事件当時5歳、今は17歳になった志水の娘・紗耶(近藤華)の写真を見せて説得を試みるが、志水は「死刑囚の父親なんか会いたいわけがない!」と声を荒げると、「私は罪を犯したんです。とても大きな罪を。もう来ないでくれ」と接見室を後にしようとする。
しかし明墨は「あなたは明日死ぬかもしれない。刑が執行されたら、二度と紗耶さんはあなたに会えない。あなたに触れることも。声を聞くことも。でもそれだけじゃない。あなたの無実を知ることもなく、殺人犯の娘として、この先何十年も生きていかなければならないんです。それはもしかしたら、死刑を迎えるあなた以上に酷かもしれません。あの子を守れるのはあなただけなんです!」と必死に繋ぎとめる。
「私があなたを、必ず無罪にしますから!」いつもの明墨のセリフだが、そこには策も余裕もなく、ただ誓うような強さと必死さが詰まっている。
志水が振り返り、一瞬、何かを言い出そうとする様子をみせるが、言葉を発することはなく、踵を返して接見室を出て行ってしまった。
明墨と志水が無言で見つめ合った17秒間、会話をするよりも強く、2人の意志がぶつかり合う姿に飲み込まれ、息がつまる。
普段は無表情を貫く明墨が、冷徹な仮面で12年間抑え込んできた哀しみと覚悟があふれ出す──。
一方、赤峰は、松永の傷害事件の再審に挑み、ついに無罪を勝ち取った。
赤峰は最終弁論で、松永を有罪に導いた、自分を含む司法に携わる人間の倫理観を問い、「この先松永さんのように苦しむ人を作らないためにも、責任と覚悟を持って、この判決を覆したいと思います」と語った。そして無罪を勝ち取ってもなお、松永に長く時間がかかったことを詫びると、自分の正義を貫いた成果に誇りをもち、自らの道を歩み始めた。
その赤峰が、緋山の元を訪れ、「エゴシって誰ですか?」と問いかける。
赤峰は、緋山が産廃場に捨てたはず(第2話)の制服を差し出す。犯行時に返り血を浴びた、殺人の証拠となる制服だ。「もう逃しませんよ?」とまるで明墨のように不敵に笑い、緋山を追い詰める。自らの正義に確信を得た赤峰は、自分のやり方で糸井一家殺人事件を追い始めるのか──?
すべての事件が結審し、それらが持つ糸井一家殺人事件との繋がりが見えた。いよいよ、糸井一家殺人事件の解決に向けてすべての準備が整った。そう思った矢先、明墨の道と、赤峰が求める正義の道が、別々に動き出す。
これまで見たことがない、明墨の涙ながらの懸命な説得にも、再審を固辞する志水の真意とは?
第8話で明墨が紗耶に語る真実に、何が明らかになるのか。そして紗耶や赤峰は真実をどう受け止めるのか──?明墨の真実のすべてが明かされる次話をただただ待ちたい。
第7話はこちらから
第8話予告編はこちらから
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