終盤に入るにつれ、考察合戦が加速した日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』。12月20日に放送された二時間スペシャルの最終回では、ついに鉄平(神木隆之介)が端島から姿を消してしまった理由が明かされ、半世紀前に閉山した端島の人々と現代がつながった。鉄平が、現代のホスト・玲央やいづみ(宮本信子)に残した“ダイヤモンド”とは?
※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。
2018年の朝子=いづみの池ヶ谷家では、会社売却を止めるべく、息子の和馬(尾美としのり)が鉄平の行方をつきとめようと提案する。しかし、長女の鹿乃子(美保純)は猛反発。「鉄平は朝子を捨て、兄嫁のリナ(池田エライザ)と駆け落ちした」と聞かされてきた子どもたちにとっては、鉄平は母を苦しめた忌まわしい名前でもあったのだ。
1965年3月の端島では、銀座食堂の虎次郎(前原瑞樹)が朝子(杉咲花)に好意を抱いていた。虎次郎が鉄平に「(朝子への想いを)信じていいんですか?」と問うシーンは、朝子の幸福を願う気持ちがにじみ出ている。いづみや子どもたちが回想する通りのいい人に違いない。
ある日、鉄平のもとに不審な封筒が届く。坑内火災で命を落とした兄の進平(斎藤工)が、かつてリナを追ってきたやくざ者の鉱員・小鉄こと門野鉄を殺害。遺体は海に沈んで誰にも知られずにいたが、小鉄の仇を取ろうと端島にたどりついていたのだ。
そんな折、鉄平は大事な話があると朝子を誘う。「仕事が終わったら夜に会おう」と約束していたが、まさにその日、リナの息子の誠がさらわれてしまった。鉄平は、誠とリナを守るため1人でならず者と対峙することを決意。誠を傷つけられ、もう後がないと悟った鉄平は、咄嗟に小鉄を「俺が殺した!」と啖呵を切る。罪をかぶって誠を奪い返し、やくざ者たちを挑発するように「俺を殺しに来い!」と言い捨てて、そのままリナと誠を小舟に乗せて島を逃げ出したのだ。
鉄平は消え、二度と端島に戻ってはこなかった。そして鉄平との約束を頼りに朝まで待っていた朝子は、鉄平への想いとともに、端島にとり残されてしまった。
実は、鉄平の”その後”を知ることができたのは、秘書の澤田(酒向芳)が社長室の金庫に隠していた日記の最後の1冊が明らかになったからだ。澤田こそが鉄平が救った誠その人で、リナと誠の“罪”がいづみをさらに傷つけてしまうと案じたのだという。
しかしいづみは、床に頭をこすりつけるように謝罪する澤田を優しく受け止める。虎次郎と結婚して子どもに恵まれた。「あなたたちがいたから、この家族に会えた。あなたが、生きてて、また会えて、よかった。」と、「赦すこと」の意味を教えてくれた。
日記の最後の1冊から、端島を去った鉄平の足跡が明かされていく。鉄平は1人で追っ手から逃げつつも、賢将とだけは連絡を取っていた。長崎の浦上天主堂で彼と再会した鉄平だが、閉山が決まった端島に帰ってこないかという賢将の頼みにも首を縦に振らない。
思えば、鉄平がエゴをむき出しにしたり、誰かと利害がぶつかった時に自分を優先させたことは一度もなかった。だから朝子へのプロポーズもついぞ果たせなかったし、進平の罪をかぶってリナと誠を守った。逃亡中でも律儀に鉱員の就職先を賢将に託し、外勤としての役割を少しでも果たそうとする。
賢将は鉄平に、母になった朝子の写真を見るかと尋ねる。鉄平は一度ためらうが「見ないと後悔する」と一言おいて、島に残った朝子の写真を目に焼き付けた。自分が舞い戻ることで朝子を危険に晒すわけにはいかない──会いたくても会うことが叶わない朝子への素直な感情があふれた瞬間だった。
現代のいづみと玲央は、日記と一緒に再び長崎を訪れる。閉山で島を離れた時、いずみの記憶の中では無機質なコンクリートで覆われていた端島は、皮肉にも人がいなくなったことで緑にあふれていた。2人は船員の証言から、晩年の鉄平が端島を訪れて“ダイヤモンド”──あの日朝子に贈ろうとしたギヤマンを残していったことを知る。
その夜、当時の端島を撮影した貴重な映像が送られてきた。玲央と鉄平には血縁関係はなかったし、どうやら映像に映った鉄平は、いづみが思っていたほど玲央と似ていないようだ。けれど、玲央に出会った当時を振り返り「ただ声をかけたかったのかも。『どうかした?』って。外勤さんみたいに」と微笑む。玲央は「…そっか。俺は、鉄平に声をかけられたってことか」と画面を見つめ、鉄平からいづみ、いづみから玲央へと魂のバトンが受け継がれていたことを知る。
朝子=いづみの周囲では、鉄平を知る人は皆鬼籍に入ってしまった。だが鉄平が遺した日記と端島に残されたギヤマン、そして、彼の最期の地で咲き誇るコスモスは、雄弁に鉄平の思いを物語っていた。いづみは、あの日端島に残ったままの朝子と会話をする。
朝子「私の人生、どがんでしたかね。」
いづみ「朝子はね、気張って生きたわよ。」
いづみは、夢の中の色鮮やかな過去の端島で、叶わなかったプロポーズを受け入れた。あの日以来あえて封印してきた鉄平への想いに区切りをつけられたのだ。
端島は世界遺産に認定されたものの、かつての建築物は崩壊しつつあり、やがては島そのもものが水没する可能性すらあるという。その頃には鉄平が置いていったギヤマンも、タイトルの通り海に眠ることになるだろう。だが2024年の玲央がふと鉄平を思い出すように、人の想いもダイヤモンドのごとく何万年、何億年と受け継がれて宝物になっていくかもしれない。
島の説教和尚(さだまさし)の言葉が、本作の思いを語りかける。
「人はそれぞれ全宇宙の中でたった一人の自分として生まれます。あなたはあなたの道を行けばよか」
「意味のなかことはひとつもありませんよ。良かことも悪かことも、すべてね。すべてを抱えて、一生懸命生きて行く。それが人間たい。」
端島に生きる人たちの人生に寄り添った『海に眠るダイヤモンド』。端島に生きた人々だけでなく、この世に生まれたすべて人を全肯定するかのようなやさしさに満ちた作品だった。
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